岐路に立つ欧州経済：保護主義の影と日本への教訓
フランスの太陽光パネルメーカー、バレック社がEUの支援を得て巨額の罰金処分を免れたというニュースは、欧州経済の抱える根深い課題を浮き彫りにしている。４億ユーロという巨額の罰金が、EUの「グリーンディール」政策推進のためという理由で軽減された背景には、欧州が直面する経済的・政治的現実が透けて見える。
バレック社は、不当廉売や補助金の不正受給といった疑いで調査を受けていた。本来であれば、自由で公正な市場競争の原則に照らせば、厳正な処分が下されるべき事案である。しかし、同社が欧州域内での生産能力維持、ひいては雇用確保に不可欠な存在であるという判断が、結果として処分軽減という形で反映された。これは、目先の経済的損失を回避するため、あるいは域内産業保護という名目で、市場原理や国際的なルールが揺らいでいることを示唆している。
近年、欧州は中国をはじめとする新興国の台頭や、地政学的リスクの高まりを受け、経済安全保障という観点から自国産業の保護に傾斜する傾向が顕著になっている。「グリーンディール」のような野心的な政策も、その実現のためには域内産業の育成・保護が不可欠という論理に繋がりやすい。しかし、その行き過ぎは、保護主義という名の壁を築き、自由貿易の精神を損なう危険性を孕んでいる。
今回のバレック社の事例は、まさにその一端と言えるだろう。域内産業の維持という名目の下で、国際的な競争ルールが事実上「変則」されることは、長期的に見れば欧州経済全体の競争力を削ぐことにもなりかねない。なぜなら、公正な競争環境があってこそ、企業は技術革新や効率化に真剣に取り組むインセンティブを持つからである。保護された環境に甘んじれば、いずれ国際市場での競争力を失うことは避けられない。
この状況は、日本にとっても決して他人事ではない。我が国もまた、少子高齢化や地政学リスクといった課題に直面し、国内産業の育成やサプライチェーンの確保を重視する声が高まっている。しかし、欧州の事例は、その政策運営において慎重な判断が求められることを示唆している。
産業保護や経済安全保障の追求は、確かに重要である。しかし、それが過度な保護主義に繋がれば、国際社会との協調を損ない、結果として自国の経済的発展を阻害する可能性が高い。経済はグローバルな相互依存の中で発展するものであり、孤立した保護主義は、いずれ衰退を招く。
日本が今後、経済政策を推進する上で、欧州の経験から学ぶべきことは多い。域内産業の保護と、国際的な自由貿易の原則とのバランスをいかに取るか。経済安全保障と、グローバルな経済連携をいかに両立させるか。これらの問いに対する、より賢明な答えを見出すことが、我が国の持続的な発展には不可欠である。今回のバレック社の事例を、欧州経済の未来、そして我が国の経済政策を考える上での、貴重な教訓として受け止めるべきであろう。
BARILLEC SAS、4万ユーロの罰金処分 – 経済・財務・産業・デジタル化省が公表,economie.gouv.fr
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