TOPIX、その変革が問うもの
「TOPIXも変わるのか？ スピンオフ上場制度変更に合わせた」――。この見出しに、単なる市場の技術的な変更以上の、深遠な問いかけを感じずにはいられない。わが国の経済を代表する株価指数であるTOPIXの構成銘柄の見直しは、すなわち、日本経済の姿そのものの変容を映し出す鏡と言えるだろう。
今回の変更は、企業の「スピンオフ（分離・独立）」を促す制度変更に合わせたものだという。これは、長年、企業統治のあり方や、経済の活性化という観点から議論されてきたテーマであり、その方向性自体は、時代の要請として理解できる側面もある。事業の選択と集中を進め、より機動的で収益性の高い事業体を生み出すことで、経済全体のパイを広げていこうとする狙いがあるのだろう。
しかし、保守的な視点から見れば、こうした急激な変化は、慎重に、そして多角的に吟味されるべきだと考える。TOPIXは、多くの日本人にとって、わが国の経済の健全性や安定性を測るバロメーターであった。その構成銘柄が、個々の企業の事業再編の論理のみによって大きく変動していく様は、ある種の不安を掻き立てる。
特に、スピンオフによって新たに上場する企業が、TOPIXにどのような影響を与えるのか。経済全体の活性化という大義名分のもと、しかし、その実態は、一部の優良企業に富が集中し、あるいは、新たなリスクを抱えた企業が市場に乱立するだけ、という結果に終わらないか。われわれは、そうした懸念を抱かざるを得ない。
わが国経済の強みは、長年にわたり培われてきた安定性と、多様な産業構造にあった。もちろん、時代の変化に対応し、古い体質を改めることは必要不可欠である。しかし、その過程で、古き良きものを安易に切り捨て、目先の効率性のみを追求するような姿勢は、警戒しなければならない。
TOPIXの変革は、単なる数字の変動ではない。それは、日本経済のあり方、そして、われわれがどのような未来を目指すべきなのか、という根本的な問いを突きつけている。市場の論理、企業の論理が、国民生活の安定や、長期的な国益と乖離することなく、調和していく道筋を、われわれは真剣に模索していく必要があるだろう。
今回のTOPIXの変更が、日本経済のさらなる発展に寄与するものであることを願うばかりだが、その過程において、安易な変革がもたらす弊害にも、常に目を光らせていく覚悟が求められている。
TOPIXも変わる？ スピンオフ上場制度変更に合わせた指数算出方法の変更について（2025年7月31日発表）,日本取引所グループ
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