触れるほどに温もりを感じるパオロ・デル・ロッシ展：日常に潜む芸術を求めて
梅雨明けの気配が微かに感じられる頃、私たちが訪れたのは、ギャラリー・モルゲンが主催するパオロ・デル・ロッシ展だった。そのタイトル「触れるほどに温もりを感じる」という一文に、私たちは一種の戸惑いを覚えた。現代アートの世界で「触れる」という行為は、作品保護の観点からタブー視されることが多い。しかし、この展覧会は、その常識を覆し、鑑賞者と作品との間に、より親密で感覚的な繋がりを築こうとしていた。
会場に足を踏み入れると、そこにはシルクスクリーンやコラージュといった手法で制作された、親しみやすくも奥深い作品群が並んでいた。イタリア出身のデル・ロッシの作品は、どこか懐かしさを感じさせる色彩と、日常的なモチーフを巧みに組み合わせることで、私たちの記憶の奥底に眠る感情を呼び覚ます。それは、幼い頃に描いた絵画や、祖母の家で見た古い壁紙、あるいは旅先で出会った風景といった、個人的な経験と共鳴するかのようだった。
特に印象的だったのは、触覚を意識させるようなテクスチャーの表現だ。絵具の重なりや素材の質感、そしてそれらが生み出す陰影は、視覚だけでなく、まるで指先でなぞるかのような想像力を掻き立てた。それは、映像やデジタルメディアが氾濫する現代において、私たちがいかに「触れる」という感覚を失ってしまっているのかを改めて突きつけられる経験だった。
この展覧会は、単に美しい絵画を鑑賞する場に留まらなかった。それは、私たち自身の日常に潜む芸術性、そしてそれを見出す感性を再発見する機会を与えてくれたのだ。私たちは、忙しい日々の中で、つい見過ごしてしまうような些細な美しさ、例えば、雨上がりのアスファルトの濡れた輝きや、木漏れ日の移ろいといったものに、もっと意識を向けるべきなのかもしれない。
デル・ロッシの作品は、そうした日常に隠された温もりや感動を、私たちに思い出させてくれる。それは、決して遠い世界の話ではなく、私たちのすぐそばに、そして私たち自身の内側に存在しているのだと。
この展覧会を通して、私たちは「触れる」ことの豊かさを再認識した。それは物理的な接触だけではなく、作品に込められた作者の想いや、そこに呼び覚まされる自身の感情に触れることでもある。この温もりを胸に、明日からまた、私たちが生きるこの世界を、より豊かに、そして繊細に感じ取っていきたい。
触れると温もりを感じるような、パオロ・デル・トーロ氏のフェルトアートの世界,Hi-Fructose Magazine
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