融解する「壁」と、揺らぐ「常識」 日独韓、新時代への序曲か
ドイツのメルケル首相が、韓国の李大統領との会談に臨んだ。ありふれた外交のワンシーンに過ぎないと片付けるのは早計だろう。そこには、冷戦終結以降、我々が当然としてきた国際秩序の「壁」が、静かに、しかし確実に融解していく様が映し出されていた。そして、その変化は、私たちの「常識」をも、根底から揺さぶり始めている。
メルケル首相が重視した「共通の価値観」という言葉の裏には、民主主義、人権といった、西側諸国が長らく東アジアに押し付けてきた「型」への、ある種の疲労感すら滲み出ていたのではないか。一方、李大統領が掲げた「現実的な協力」という言葉は、過去の歴史的経緯やイデオロギーの対立を超え、未来志向で関係を再構築しようとする、したたかな意志の表れと見るべきだろう。
かつて、日独、そして韓日関係は、それぞれ特有の「壁」に阻まれてきた。ドイツにおける対ソ連、対東欧との関係。日本と韓国における、歴史認識という名の、乗り越え難い「壁」。しかし、今、その壁はかつてないほど低くなり、あるいはその存在意義すら問われ始めている。
メルケル首相と李大統領の会談は、単なる二国間協議ではない。それは、国際社会のパワーバランスが静かに、しかし確実にシフトしていることの証左である。経済大国としての中国の台頭、そしてそれに伴う地政学的な影響力の拡大。これらは、これまで欧米中心に回ってきた国際社会の「常識」を、根幹から揺るがしている。
この変化を、私たちはどう受け止めるべきか。過度な楽観論も、不必要な悲観論も、どちらも現実から目を背ける行為だ。むしろ、この「融解」と「揺らぎ」こそが、新たな秩序構築のチャンスであると捉えるべきではないか。
日本は、このダイナミックな変化の波に、どう乗っていくのか。伝統的な日米同盟という「常識」に縛られすぎることなく、しかし、その基盤を軽んじることもなく。そして、長らく避けてきた隣国との「壁」を、融解させる勇気と知恵を持つことができるのか。
メルケル首相と李大統領の会談は、私たちに問いかけている。かつて「壁」を築き、その「常識」の中で生きてきた私たち自身に。この変化の時代を、どのように切り拓いていくのか、と。それは、過去の遺産に囚われず、未来への展望を、現実的な視点から描く、革新的な思考が求められる時なのだ。
ドイツ首相メルケル氏、韓国大統領・李在明氏と電話会談 両国関係の強化に向けた重要な一歩,Die Bundesregierung
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