世界の飢餓、わずかに縮小も格差拡大 “食”の安全保障、深化する課題
国連食糧農業機関（FAO）などによる最新の報告書が、世界の飢餓人口のわずかな減少を示唆した。長引く紛争や気候変動による異常気象、そしてパンデミックの残滓が食料供給網を揺るがし続ける中で、この小幅な改善は一縷の光とも言えるだろう。しかし、その光はあまりにも微弱であり、むしろその陰で深まる格差の現実が、我々に突きつける課題の大きさを物語っている。
報告書は、飢餓人口が減少した一方で、深刻な食料不安に直面する人々の数が増加していることを指摘している。これは、食料の総量がわずかに増えたとしても、その分配に著しい偏りが生じていることを意味する。紛争地域や開発途上国においては、依然として飢餓が蔓延し、多くの子どもたちが栄養失調に苦しんでいる。一方で、先進国では食料廃棄問題が深刻化しており、このコントラストは実に痛ましい。
なぜ、このような状況が生まれるのか。その根源には、グローバルな経済システムにおける構造的な問題が横たわっている。食料価格の変動、国際的なサプライチェーンの脆弱性、そして途上国への支援の限界――これらが複合的に作用し、食料へのアクセスを左右する。特に、気候変動の影響は、食料生産基盤を揺るがし、さらなる貧困と飢餓を生み出す悪循環を生んでいる。
今、我々が直面しているのは、単なる食料不足の問題ではない。「食」の安全保障という、より広範で複雑な課題である。これは、単に飢餓をなくすという人道的な側面だけでなく、国家の安定、経済の持続性、そして平和にも直結する。食料へのアクセスが不安定になれば、社会不安が増大し、紛争のリスクも高まる。経済活動も停滞し、 poverty の連鎖を断ち切ることは困難になる。
この状況を打破するためには、短期的な緊急支援にとどまらない、より長期的で構造的な取り組みが不可欠である。まず、持続可能な農業への投資を強化し、気候変動に強い品種の開発や、農地の保全を進める必要がある。また、国際社会は、食料供給網の強靭化に向けた協力体制を強化し、不当な貿易障壁の撤廃や、食料価格の安定化に向けた国際協調を深めなければならない。
さらに、忘れてはならないのが、格差是正への取り組みである。途上国への技術支援やインフラ整備はもちろんのこと、国内においても、所得格差の是正や社会保障制度の拡充を通じて、誰もが安全で栄養のある食料にアクセスできる社会の実現を目指すべきである。食料廃棄の削減も、喫緊の課題であり、消費者一人ひとりの意識改革と、流通・小売業界における抜本的な改革が求められる。
世界の飢餓人口がわずかに減ったことは、希望の兆しではある。しかし、その陰で拡大する格差は、我々に「食」という、最も基本的な権利がいまだに多くの人々に保障されていない現実を突きつけている。経済紙として、我々はこの問題を看過することはできない。持続可能な社会の実現のため、そしてすべての人が尊厳を持って生きられる世界の実現のため、今こそ、食料安全保障という難題に、より一層果敢に取り組むべき時なのである。
世界の飢餓、わずかに減少も格差拡大 国連報告書が示す複雑な実情,SDGs
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