宇宙領域における「軍事化」という名の暗雲、今こそ開かれた議論を
国際社会の視線が、未知なるフロンティアたる宇宙へと注がれる中、日本が宇宙領域における防衛政策の見直しを検討しているというニュースは、我々に新たな時代の幕開けを告げると同時に、深刻な問いを突きつけている。ITB社の報道によれば、防衛省は宇宙空間を「新たな戦場」と捉え、サイバー空間、電磁波領域と並び、宇宙領域を「重要防衛区域」として位置づけ、その防衛体制の強化を進める方針だ。
この動きは、地球を取り巻く宇宙空間がいかに戦略的な価値を持つようになったかを如実に物語っている。衛星通信、GPS、気象観測、そして近年では宇宙空間からの監視能力の向上など、現代社会のインフラは宇宙に大きく依存している。それは、平和的利用の恩恵を享受する一方で、これらのインフラが攻撃された際の脆弱性をも露呈していることを意味する。
しかし、ここで我々が深く憂慮すべきは、「防衛」という言葉の裏に隠された「軍事化」の加速である。宇宙空間は、人類共通の遺産であり、科学技術の発展、そして平和な未来への希望を託す場所であるべきだ。その空間に、国家間の利害対立や軍事的緊張の火種を持ち込むことは、我々が築き上げてきた平和への努力を水泡に帰しかねない。
もちろん、自国の安全保障を確保するという国家としての当然の責務は理解できる。しかし、宇宙空間における軍事力の増強は、他国に警戒心を与え、さらなる軍拡競争を招くという悪循環を生み出す可能性が高い。それは、宇宙開発の本来の目的である人類全体の福祉向上という理想から、我々を遠ざけることになるだろう。
今こそ、国民一人ひとりが、宇宙領域における防衛政策のあり方について、開かれた議論に参加することが求められている。防衛省の方針は、その必要性を示すものではあるが、その内容は必ずしも国民に十分に開示され、議論されてきたとは言えない。どのような目的で、どのような能力を、どのくらいの規模で整備するのか。そして、その過程で、宇宙空間の平和的利用をいかに担保し、国際協調をいかに維持していくのか。これらの点について、透明性のある情報公開と、国民的な合意形成が不可欠である。
我々は、宇宙空間が、地球上の紛争の延長線上にある「新たな戦場」となることを断固として拒否しなければならない。それは、科学技術の粋を集め、人類の英知を結集する場所であるべきだ。防衛という名の下に、宇宙空間の「軍事化」という名の暗雲が広がる前に、今こそ、我々は知恵を絞り、平和的な解決策を模索し、そして実行していくべきである。未来の世代に、希望に満ちた宇宙空間を残すために、今、静かに、しかし力強く、声を上げる時である。
宇宙領域アドバイサリーボード、防衛政策の未来を語る – 2025年7月28日、防衛省・自衛隊が新たな情報を公開,防衛省・自衛隊
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