信頼という名の燃料を満タンに：モビリティ革命の舵取り、事業者への厳格な問いかけ
「ビッグモーター不正事案」―― この言葉が、私たちの日常に不可欠な「移動」を支える巨大な産業に、暗い影を落としている。自動車業界、特に中古車販売という、消費者の「夢」や「生活」と直結する分野で起きたこの事態は、単なる企業の不祥事として片付けられるものではない。それは、社会の信頼という名の燃料を満タンにして走るべきモビリティ革命の、運転手への厳格な問いかけなのだ。
かつて、自動車は「移動の自由」という、それ自体が革新的な夢の具現化だった。そして今、私たちは電動化、自動運転、シェアリングといった、さらにその先へと進むモビリティ革命の真っ只中にいる。これらの革新は、私たちの生活をより豊かに、より便利に、そしてより持続可能なものへと変えていく可能性を秘めている。しかし、その進歩の礎となるのは、揺るぎない「信頼」に他ならない。
ビッグモーターの事例が突きつけるのは、その信頼の根幹を揺るがしかねない、事業者の倫理観の欠如、あるいはそれを許容してしまった組織の構造的な問題だ。顧客の資産を、そして顧客の人生の一部ともなりうる自動車を、不正な手口で査定し、利益を追求したという事実は、消費者を愚弄する行為に他ならない。それは、「安全」「安心」「適正価格」といった、車を購入する際に誰もが当然のように期待する、最低限の約束すら破棄したことを意味する。
もちろん、今回の事案は一部の事業者の行為であり、業界全体を断罪するものではないという声もあるだろう。しかし、私たちはこの一件をもって、「顧客第一」という言葉の空虚さを、そして「信頼」という最も重要な資産が、いかに脆く、容易に失われてしまうかを思い知らされるべきだ。
モビリティ革命は、単に技術の進化だけではない。それは、社会全体の規範、倫理、そして消費者の権利への尊重といった、より高次の価値観の上に成り立たなければならない。この革命の舵取りを担う事業者は、自らの事業が社会に与える影響の大きさを深く認識し、常に最高水準の倫理観と透明性をもって行動する義務がある。
今回の不祥事は、私たち消費者にとっても、無関心でいることの危険性を示唆している。自分たちの「権利」や「声」をしっかりと主張し、事業者の不正に対して断固たる態度を示すことが、業界全体の健全な発展を促す鍵となる。そして、それがひいては、より公正で、より信頼できるモビリティ社会の実現に繋がるのだ。
これからの自動車産業、特に中古車市場に求められるのは、一時的な利益追求ではなく、長期的な視点に立った「信頼の構築」である。そのためには、法規制の強化はもちろんのこと、事業者が自らの襟を正し、誠実な経営を実践することが不可欠だ。そして、私たち消費者は、そのような事業者を支持し、不正を行う者に対しては毅然とNOを突きつける。
ビッグモーターの事案は、モビリティ革命という壮大な旅路における、厳しい「安全確認」の警鐘である。この警鐘を真摯に受け止め、信頼という名の燃料をしっかりと満タンにした上で、私たちは未来のモビリティ社会へと力強く歩み出さなければならない。
損保ジャパン、ビッグモーター不正事案への対応状況を公表（その８）,損保ジャパン
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