メタバースで開かれる「小田原市」、その光と影
近年、急速に普及しつつあるメタバース。その先進的な技術をいち早く活用し、市のPRイベントをメタバース空間で開催するという小田原市の取り組みは、いかにも現代的で、時代を先取りしていると言えるだろう。しかし、こうした新しい試みに対して、我々一般紙の論調としては、その光の部分だけでなく、影の部分にも目を向け、冷静な視点から論じることが重要である。
小田原市がメタバースで「オープンカンパニー」を開催するというニュースに接し、まず想起されるのは、その集客力と情報発信力の向上への期待であろう。物理的な距離や時間的制約を超えて、より多くの市民や関心を持つ人々が小田原市の魅力を体験できる機会が生まれることは、地方創生の観点からも歓迎すべきことだ。例えば、歴史的な建造物の再現や、地域特産品の紹介など、メタバースならではの臨場感あふれる演出は、新たな観光客誘致や地域経済の活性化に繋がる可能性を秘めている。
しかし、同時に、こうしたデジタル空間でのイベントが、現実世界での活動を代替してしまうのではないか、という懸念も拭えない。メタバースはあくまで仮想空間であり、そこで得られる体験は、実際に現地を訪れることによる五感を通じた感動や、地域住民との温かい交流といった、物理的な体験に取って代わることはできない。むしろ、デジタル化が進むことで、地域本来の「温もり」や「人間味」が薄れてしまうのではないか、という危惧もある。
さらに、デジタルデバイドの問題も看過できない。メタバースへのアクセスや利用には、一定のITリテラシーと環境が必要となる。高齢者やデジタル機器に不慣れな層にとっては、こうした新しい取り組みが、かえって情報から隔絶される原因となりかねない。せっかくの市の魅力発信も、一部の人々にしか届かないのであれば、その効果は限定的と言わざるを得ない。
小田原市の試みは、未来への挑戦として評価されるべきものである。しかし、その推進にあたっては、デジタル技術の利便性を享受する一方で、現実世界における人間的な繋がりや、社会の公平性といった、より根源的な価値を見失わないことが肝要である。メタバースはあくまでツールであり、その活用方法次第で、地域社会を豊かにすることも、逆に希薄にしてしまうこともありうる。
我々市民は、こうした新しい技術の導入に対して、過度な期待に浮かれるのではなく、そのメリットとデメリットを冷静に見極め、真に地域のためになる形での活用を求めていく必要がある。小田原市のメタバースでのイベントが、単なる一時的な話題作りにとどまらず、地域社会の持続的な発展に貢献するものであることを願うばかりである。
小田原市がメタバースでオープンカンパニー開催！未来の働き方を探る参加者募集！,小田原市
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