ファッション業界、ネットゼロ目標達成への道程は険しい
近年、気候変動対策への意識の高まりとともに、多くの産業で脱炭素化、すなわち「ネットゼロ」への取り組みが加速している。ファッション業界も例外ではない。持続可能な素材への転換、生産プロセスの効率化、さらには廃棄物削減といった様々な努力がなされている。しかし、この業界が掲げるネットゼロ目標の達成は、一筋縄ではいかない現実を突きつけている。
ファッション業界のサプライチェーンは、原料調達から製造、流通、そして消費者の手に渡り、最終的な廃棄に至るまで、極めて複雑でグローバルに広がっている。綿花の栽培における農薬や水の使用、石油由来の合成繊維の製造、染色や加工における化学物質の使用、そして大量生産・大量消費を前提としたビジネスモデル。これらの各段階で、少なからぬ環境負荷が発生していることは周知の事実である。
特に、本稿で取り上げられているように、多くの企業が2030年や2050年といった具体的な目標年を設定しているにも関わらず、その達成に向けての道筋は依然として不透明な部分が多い。その背景には、技術的な課題、コストの問題、そして何よりも、消費者の購買行動やライフスタイルとの根深い結びつきがある。
例えば、最新のトレンドを追い求める消費者のニーズに応えようとすれば、どうしても生産量を増やし、頻繁に新商品を投入する必要が出てくる。これが「ファストファッション」という言葉に象徴される、大量生産・大量消費の構造を生み出している。この構造を根本から変えることは、業界のビジネスモデルそのものにメスを入れることを意味し、容易なことではない。
もちろん、素材の改良やリサイクル技術の進歩、そして古着やレンタルといった新たな消費形態の普及など、希望の光も存在する。しかし、これらの取り組みが、業界全体の環境負荷を劇的に低減させるまでには、まだ時間がかかるだろう。
ここで重要なのは、過度な悲観論に陥ることなく、着実な一歩を踏み出すことである。企業は、自社のサプライチェーンにおける環境負荷を正確に把握し、その削減に向けた具体的なロードマップを策定・公表する必要がある。そして、その進捗状況を透明性をもって開示し、ステークホルダーからの信頼を得ることが不可欠だ。
一方で、私たち消費者にも、ファッションとの向き合い方を見直す責任がある。本当に必要なものを吟味し、長く愛用する、あるいはリサイクルやアップサイクルといった選択肢を活用するなど、一人ひとりの行動が、業界全体の変革を後押しすることになる。
ファッション業界のネットゼロ目標達成は、単なる環境問題への対応に留まらない。それは、持続可能な社会を築くための一つの試金石とも言えるだろう。この険しい道程を、企業、消費者、そして社会全体が協力して歩んでいくことで、より良い未来を築いていくことができるはずだ。
ファッション業界、ネットゼロ目標達成は困難か？排出量増加の衝撃,Just Style
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