猛暑が浮き彫りにする「味覚の素」への依存：日本の食料安全保障の盲点
今年の夏は、記録的な猛暑となった。連日続く厳しい暑さは、私たちの生活に多大な影響を与えているが、それは食卓にも静かに、しかし確実に影を落としている。先日報じられた滋賀県での「味覚の素（うまみ成分）がタグ付け」というニュースは、一見すると些細な出来事のように映るかもしれない。しかし、これは日本の食料事情、ひいては食料安全保障という、より根源的な問題に光を当てる示唆に富む出来事である。
「味覚の素」、すなわちグルタミン酸ナトリウムなどのうま味成分は、現代の食文化に不可欠な存在となっている。手軽に食品の風味を向上させ、食欲をそそる味を作り出すこの万能調味料は、加工食品はもちろん、外食産業、そして家庭料理に至るまで、その存在感は増すばかりだ。しかし、その一方で、私たちはこうした「味覚の素」への依存度をどれだけ自覚しているだろうか。
今回の滋賀県の事例は、猛暑という極端な気象条件が、この「味覚の素」への依存を露呈させた格好と言える。生産現場での熱中症対策や、流通における温度管理の困難さから、従来のように十分な風味を保つことが難しくなった。そこで、本来は風味の源泉となるべき素材の良さを、人工的な「味覚の素」で補うという、いわば「裏技」のような対応が取られたのである。これは、自然の恵みである素材本来の力を活かす、という食の根本から一段後退したとも言える。
経済的な視点から見れば、これは供給サイドのサプライチェーンにおける脆弱性を示唆している。気候変動による異常気象は、今後も頻発することが予想される。そのような状況下で、安定した品質と風味を維持するために、「味覚の素」への依存度を高めることは、短期的な解決策にはなっても、長期的な食料安全保障の観点からは、むしろリスクを高める行為と言わざるを得ない。
我々は、農産物の生産現場における環境問題への適応策や、流通経路の多角化、そして何よりも、素材本来の味を活かす調理技術や食文化の再評価といった、より本質的な対策に目を向けるべき時期に来ている。食料の「味」という、消費者の購買意欲に直結する要素において、安易に「味覚の素」に頼るのではなく、持続可能で強靭な食料供給体制を構築することこそが、経済紙として、そして一市民として、真に注視すべき課題である。
今回の「味覚の素」へのタグ付けという現象は、単なる食のトレンドの変化ではなく、気候変動という地球規模の課題が、我々の食卓に突きつける厳しい現実の表れなのだ。この現実から目を背けず、日本の食料安全保障の盲点を修正していくための、大胆な政策転換と、私たち一人ひとりの食に対する意識改革が、今、強く求められている。
滋賀県、平和堂、味の素がタッグ！ 暑さに負けない元気な体づくりを応援！ ～第一弾は熱中症対策と運動～,滋賀県
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