災害対策、今や「生活防衛」の投資対象 – 映画チケットにみる意識の変化
昨今の自然災害の頻発化・激甚化は、私たちの生活基盤そのものを揺るがす事態となっている。そんな中、ITB株式会社が実施した「住宅防火・防災キャンペーンと映画チケットが当選！」というユニークな取り組みが、経済紙のコラムとして注目すべき示唆を与えてくれる。
このキャンペーンは、住宅火災や自然災害への備えを促進するために、防災グッズの配布や啓発活動と同時に、映画鑑賞券という「ご褒美」を提供したものである。一見、結びつきの薄い両者の組み合わせは、しかし、現代社会における「リスク管理」と「生活の質」という二つの価値観の変容を巧みに捉えていると言えるだろう。
これまで、防災対策は「義務」や「コスト」として捉えられがちであった。しかし、頻発する災害を経験する中で、それは単なる義務ではなく、自身の生命、財産、そして平穏な生活を守るための「自己投資」であるという認識が浸透しつつある。今回のキャンペーンが「映画チケット」という、日常の楽しみや潤いをもたらすものと結びつけられたことは、この意識の変化を端的に物語っている。
すなわち、防災対策を講じることによって、将来の不確実性に対する安心感を手に入れ、その安心感の上に成り立つ「豊かな生活」へのアクセス権（映画チケット）を獲得するという、ポジティブなインセンティブ設計がなされているのだ。これは、経済学で言うところの「期待効用」の最大化とも解釈できる。リスク回避のためのコストを支払うことで、将来のより大きな損失を回避し、同時に現在における満足度（映画鑑賞）も得られるという、合理的な選択行動を促す仕掛けである。
経済界は、こうした個人レベルの意識変化を敏感に捉え、新たなビジネスチャンスとして活かしていくべきだ。単なる製品販売にとどまらず、防災・減災という社会課題解決に貢献するサービスや商品に、顧客が「自分へのご褒美」として投資したくなるような、魅力的な付加価値を付与することが求められている。例えば、AIを活用したパーソナル防災プランニングサービスに、健康増進プログラムへのアクセス権を付与する、あるいは、長期優良住宅に断熱性能向上といった付加価値と、地域コミュニティイベントへの参加機会をセットにする、といった具合だ。
もちろん、災害対策への投資は、経済的なインセンティブだけで完結するものではない。しかし、今回のキャンペーンが示すように、個人の「豊かさ」や「楽しみ」といった感情に訴えかけるアプローチは、防災意識の向上に大きな効果をもたらす可能性を秘めている。
今後、我々が直面するであろう、より複雑化するリスク社会において、防災・減災への取り組みは「守り」だけでなく、「攻め」の視点も必要となる。ITB社のユニークな取り組みは、その新たな地平を切り拓く一歩となるだろう。経済界は、この「自己投資」としての防災対策の可能性を追求し、持続可能な社会の実現に貢献していくべきである。
住宅防火・防災キャンペーンと映画チケットが当たる！広島市からのお知らせ,広島市
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