広島市の採用試験、公務員像の再考を迫る
広島市が2025年度の職員採用試験において、保育士を除く一般行政職などで筆記試験を廃止する方針を固めたというニュースは、公務員採用のあり方、ひいては行政のあり方そのものに一石を投じるものと言える。少子高齢化、デジタル化の急速な進展、そして多様化する市民ニーズ。これらの変化に対応できる、より実践的で柔軟な人材を求めるという市の意図は理解できる。しかし、筆記試験の廃止という大胆な一手は、長年培われてきた公務員像への揺り戻しともなり、経済界としても注視すべき変化である。
これまで、公務員採用における筆記試験は、一定水準の知識や論理的思考力を担保するための、いわば「基礎体力」の証明とされてきた。特に一般行政職においては、法規、経済、社会学など、幅広い教養が求められ、それが行政運営の基盤を支えてきた側面は否定できない。その筆記試験を廃止し、面接やグループワーク、適性検査といった、より「人物」や「適性」に焦点を当てた選考方法へとシフトさせることは、表向きは時代に即した柔軟な発想のように映る。
しかし、ここにはいくつかの懸念も存在する。第一に、筆記試験の廃止は、公務員という職務に求められる専門知識や論理的思考力の軽視へと繋がらないかという点である。もちろん、面接等で人物評価を行うことは重要だが、複雑化する行政課題を解決するためには、やはり一定の専門知識や分析能力は不可欠である。これらをどのように選考プロセスで担保していくのか、その具体的な手法と透明性が問われるだろう。
第二に、採用試験の公平性・透明性への懸念も払拭しなければならない。筆記試験であれば、一定の客観的な基準で評価が可能だが、面接やグループワークといった人物評価は、どうしても主観が入り込みやすい。特定のスキルや経験を持つ人材を優先的に採用したいという意図があったとしても、それが「縁故採用」や「能力主義の歪み」として映らないような、厳格な評価基準とチェック体制が求められる。経済界としても、公平な競争環境は、優秀な人材の流動性を高める上で極めて重要である。
第三に、これは広島市だけでなく、全国の自治体、さらには中央官庁にとっても示唆に富む動きである。地方創生、DX推進、地域経済の活性化といった喫緊の課題に取り組む上で、従来の硬直化した公務員像からの脱却は急務であろう。しかし、その改革の方向性については、慎重な議論が必要だ。市民の信頼を得ながら、行政の質を維持・向上させるためには、どのような人材を、どのようなプロセスで採用していくべきなのか。
広島市の今回の試みは、公務員採用の「最適解」を模索する上での一つの実験と言える。その結果が、将来の公務員像、ひいては行政のあり方をどう変えていくのか。経済界としては、この変化を注視し、必要であれば意見を具申していくべきだろう。公務員もまた、経済活動の担い手であり、その質の向上は、地域経済全体の活性化にも繋がるのである。
広島市 2025年度職員採用試験（1種、保育士を除く）合格発表！未来の市政を担う人材が決定,広島市
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