秋田市からの“住民基本台帳事務”の「全」「抜本的」見直しに、地方行政のDX先進事例としての期待と懸念
秋田市が、住民基本台帳事務の「全」「抜本的」見直しに着手したというニュースは、地方行政のDX（デジタルトランスフォーメーション）推進という観点から、我々業界関係者にとって無視できない動きである。本稿では、この秋田市の挑戦がもたらすであろう可能性と、その実現に向けた課題について考察したい。
まず、住民基本台帳事務という、住民生活に直結する根幹的な行政サービスにおいて、「全」「抜本的」な見直しを敢行するという姿勢には、大いに評価すべき点がある。多くの自治体が、既存のシステムや業務フローの「部分的な改善」に留まる中、秋田市は、住民の利便性向上、業務効率化、そしてデータ活用という、より高次元の目標を見据えていることが伺える。
具体的には、デジタル技術の活用により、住民票の写しの発行や転出入の手続きといった、これまで窓口での対応が中心だった業務を、オンライン化・非対面化することが期待される。これにより、住民は時間や場所を選ばずに手続きが可能となり、子育て世代や高齢者、そして多忙な現役世代の負担軽減に大きく貢献するだろう。また、行政側においても、窓口業務の負荷軽減、人的ミスの削減、そして蓄積されたデータを分析することで、よりきめ細やかな行政サービスの提供に繋がる可能性を秘めている。
しかし、その一方で、「全」「抜本的」な見直しには、当然ながら相応のハードルも存在する。第一に、基幹システムの見直しや新規導入は、多額の投資と長期にわたるプロジェクトとなる。その費用対効果をいかに可視化し、住民や議会の理解を得られるかが鍵となる。第二に、住民の個人情報を取り扱うため、セキュリティ対策は万全を期さなければならない。サイバー攻撃のリスクは常に存在し、一度情報漏洩が生じれば、住民の信頼を失墜させるだけでなく、自治体の存続さえ危うくなりかねない。
さらに、デジタル化の恩恵を全ての住民が享受できるとは限らない。高齢者など、デジタル機器に不慣れな層への配慮、いわゆる「デジタルデバイド」の解消策も同時に講じる必要がある。窓口での丁寧なサポート体制の維持や、代替手段の確保など、ユニバーサルサービスとしての行政のあり方を見失ってはならない。
秋田市が掲げる「全」「抜本的」な見直しは、まさに地方行政のDXにおける「羅針盤」となる可能性を秘めている。この挑戦が成功すれば、全国の自治体への波及効果は計り知れない。我々業界も、秋田市の取り組みから学び、技術提供やコンサルティングを通じて、その成功を後押ししていく責務がある。
住民の安心・安全を守りつつ、行政サービスの質を向上させるという、両立が至難とされる課題に、秋田市は果敢に挑もうとしている。その結果がどうであれ、この試み自体が、日本の地方行政が未来へ進むための貴重な一歩となることは間違いない。我々は、秋田市の動向を注視し、その経験から得られる知見を、業界全体の発展に活かしていくべきである。
秋田市からのお知らせ：住民基本台帳事務の「全項目評価書（案）」について、市民の皆さまのご意見をお聞かせください！,秋田市
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