制度の「見えざる壁」を越えて
秋田市から、住民基本台帳事務における「全項目」のオンライン化に関するお知らせが届いた。これは、行政手続きのデジタル化という現代社会の大きな潮流に沿った、喜ばしい一歩と言えるだろう。これまで紙媒体でのやり取りが主流であった住民票の交付申請などが、オンラインで完結できるようになることは、市民の利便性を大きく向上させるに違いない。特に、多忙な現代人や、遠方に住む人々にとって、行政サービスへのアクセスが格段に容易になることは、その恩恵の大きさを推し量るに難くない。
しかし、このニュースに触れ、筆者はある種の懸念を抱かずにはいられない。それは、制度がどれほど進化しても、その恩恵を等しく享受できるとは限らない、という「見えざる壁」の存在である。
ITリテラシー、いわゆるデジタル機器やインターネットを使いこなす能力は、現代社会において必須のスキルとなりつつある。今回のオンライン化によって、このスキルを持つ人々は、これまで以上にスムーズに、そして効率的に行政サービスを受けられるようになるだろう。一方で、インターネット環境が整っていない、あるいはデジタル機器の操作に不慣れな人々は、どうなるのだろうか。彼らにとっては、この「オンライン化」は、かえって行政サービスへのアクセスを困難にする「壁」となり得るのではないか。
もちろん、秋田市がこのような配慮を全くしていないとは考えたくない。きっと、紙媒体での申請方法も引き続き用意されているのだろう。しかし、社会全体が「オンラインが当たり前」という雰囲気に包まれれば、自然と紙媒体の選択肢は縮小していく。そして、その縮小は、デジタルデバイド（情報格差）によって、本来行政サービスを受ける権利を持つ人々を、静かに、しかし確実に排除していく可能性がある。
学生である私たちも、日々新しい技術や情報に触れ、その恩恵を受けている。しかし、それと同時に、私たちは社会の未来を担う世代でもある。現代社会が推進するデジタル化の恩恵を、一部の人々だけが享受するのではなく、すべての市民が、その年齢や環境に関わらず、公平に受けられる社会を築く責任がある。
今回の秋田市の取り組みは、デジタル化という大きな流れの中での一歩だ。だが、その一歩が、誰かを置き去りにするものであってはならない。行政の皆様には、オンライン化の進展とともに、デジタルデバイド解消に向けた具体的な支援策を、より一層強化していただきたいと切に願う。そして、私たち学生も、ただ便利さを享受するだけでなく、制度の「見えざる壁」に目を向け、誰もが包摂される社会の実現に向けて、声を上げ、行動していく必要があるだろう。
秋田市からのお知らせ：住民基本台帳事務の「全項目評価書（案）」について、市民の皆さまのご意見をお聞かせください！,秋田市
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