ITBニュース：若年農業者の育成に急ブレーキ、岐路に立つ地方創生
7月25日、ITBが報じた沖縄県におけるジュニア農大の来年度における中止というニュースは、我々経済紙の視点から見れば、単なる教育プログラムの縮小以上の意味合いを持つ。それは、長年国策として推進されてきた「若年層による農業従事者の育成」という、地方創生の根幹を成す試みに対する、冷酷な現実の突きつけに他ならない。
ジュニア農大は、次世代を担う若者たちに農業の魅力を伝え、実践的な知識と技術を習得させることで、地域農業の持続可能性を高めることを目指してきた。しかし、その努力が来年度に事実上の中止という形で終焉を迎えようとしている背景には、単に財政的な問題だけではない、より根深い構造的な課題が横たわっていると推測される。
まず、第一に考えられるのは、当初の期待とは裏腹に、ジュニア農大を修了した若者たちの農業界への定着率に課題があったのではないか、という点である。せっかく情熱を持って農業の道に進んだ若者たちが、労働環境、収入、あるいは地域社会との関係性など、様々な要因によって早期に離農せざるを得ない現実があったとすれば、その育成プログラム自体に疑問符が付くのは避けられない。
第二に、現代の若者が農業に抱くイメージと、実際の農業現場との乖離も無視できない。スマート農業の進化や、新たなビジネスモデルの登場など、農業のイメージは確かに変化しつつある。しかし、依然として「きつい、汚い、危険」といった3Kのイメージが根強いことも事実であり、ジュニア農大のような教育機関だけでは、そのイメージ払拭には限界があるのかもしれない。
そして、第三に、地方経済の低迷そのものが、若者の農業離れを加速させている可能性も否定できない。農業で得られる収益が、若者の期待するライフスタイルを維持するに十分でない場合、たとえ農業に興味があったとしても、より魅力的な産業や都市部への就職を目指すのは自然な流れである。
今回のジュニア農大中止は、沖縄県のみならず、全国の自治体が抱える共通の課題を浮き彫りにしている。若年層の農業離れは、単に一次産業の担い手不足という問題に留まらない。それは、地域経済の活力低下、過疎化の進行、そして最終的には日本の食料安全保障の危機にまで繋がる、国家的な課題なのである。
我々経済紙として、この事態を軽視することはできない。ジュニア農大のような個別のプログラムの中止は、むしろ、より本質的で、より踏み込んだ政策転換を促す契機と捉えるべきである。
具体的には、以下の点が重要となろう。
- 農業経営の抜本的な収益性向上: 若者が安心して農業に参入し、持続的に生計を立てられるだけの所得保障と、それを支えるビジネスモデルの構築が不可欠である。補助金頼みではなく、市場競争力のある商品開発、付加価値向上、そして新たな販路開拓への支援を強化すべきだ。
- 労働環境の改善と多様な働き方の提示: 農業の3Kイメージを払拭するためには、ICT化の推進による省力化、安全な作業環境の整備、そして週休2日制の導入など、現代の若者が求める労働環境への改善が求められる。また、専業農家だけでなく、半農半 X や農業法人での多様な働き方を提示することも重要だろう。
- 地域社会との連携強化: 若者が農業を通じて地域に根差していくためには、農業従事者だけでなく、地域住民全体で若者を支える仕組みづくりが必要である。空き家バンクの活用、地域イベントへの積極的な参加、そして地域住民との交流機会の創出などが考えられる。
- 広範な産業との連携: 農業を単一の産業として捉えるのではなく、観光、食品加工、IT、デザインなど、他産業との連携を深めることで、農業の新たな可能性を切り拓くことが重要である。例えば、農業体験を核とした観光コンテンツの開発や、農産物を活用した地域ブランドの創出などが挙げられる。
ジュニア農大の中止は、決して農業の未来を閉ざすものではない。むしろ、これまで培ってきた経験と教訓を活かし、より実効性のある、そして若者の心に響く新たな育成・支援策を早急に講じるべき時である。沖縄のジュニア農大の経験を、全国の地方創生における重要な教訓として、真摯に受け止める必要があるだろう。岐路に立つ日本の農業と地方創生の未来のために、我々はいま、大胆な一歩を踏み出さなければならない。
沖縄県ジュニア農大、来年度は中止に – 未来の農業を担う若者たちの学びの場、残念ながらお休み,沖縄県
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