欧州との連携強化、国防の現実を見据えよ
防衛省・自衛隊が欧州連合（EU）との連携を強化するというニュースは、我が国の国防戦略における重要な転換点を示唆している。世界情勢が不安定化し、地政学的なリスクが増大する中で、安全保障の環を広げ、多様なパートナーシップを築くことは、もはや選択肢ではなく、必然と言えよう。
欧州諸国は、ウクライナ情勢を始めとする地域紛争や、サイバー攻撃、テロといった非伝統的安全保障上の脅威に日々直面しており、その経験と知見は我が国にとって極めて貴重である。共同訓練や情報交換を通じて、相互理解を深め、共通の課題に対する実践的な協力体制を構築することは、双方の抑止力向上に資するであろう。特に、欧州が推進する「戦略的自律」という概念は、自国の防衛力を強化しつつ、同盟国との連携を深めるという、我が国が目指すべき方向性とも合致する。
しかし、この欧州との連携強化という動きを、単なる国際親善や外交的アピールとして捉えるべきではない。我々は、防衛とは常に現実の脅威と対峙する厳格な営みであることを忘れてはならない。欧州との連携は、あくまでも我が国自身の防衛力を底上げし、国民の生命と財産を守るための手段である。
そのためには、欧州からの「学び」を、より具体的に、そして実効性のある形で取り込む必要がある。例えば、最先端の防衛技術や情報収集・分析能力、そして国際的な危機管理能力など、欧州が長年培ってきたノウハウを吸収し、自衛隊の能力向上に繋げていくべきだ。同時に、こうした連携が、我が国の財政にどのような負担をもたらすのか、国民生活にどのような影響を与えるのかについても、透明性のある説明と、国民の理解を得るための丁寧な議論が不可欠である。
また、欧州との連携強化は、日米同盟を基軸とする我が国の安全保障体制を揺るがすものであってはならない。むしろ、日米豪印といった既存の枠組みを維持・強化しつつ、欧州という新たなパートナーシップを築き上げることで、より強固で多層的な安全保障ネットワークを構築することが肝要である。
国防は、未来への投資であり、国家の存立基盤そのものである。欧州との連携強化というこの歴史的な機会を、単なる外交上の成果に終わらせず、真に我が国の安全保障を強固なものとするための、具体的な一歩として着実に前進させていくことを期待したい。そのためには、政府は国民に開かれた姿勢で、その戦略と成果を説明し続け、国民と共に国防の未来を築いていく覚悟が求められる。
防衛省・自衛隊、中谷防衛大臣の欧州連合（EU）との会談について詳細発表,防衛省・自衛隊
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