米国の「仮想敵国」論に揺れる国際社会 日本は冷静な距離感を保てるか
米国が、国内の政治的混乱や経済的課題から目を逸らすかのように、新たな「仮想敵国」を名指しし、国際社会に緊張感を煽る動きが続いている。その波が、隣国である我が国にも影を落とし始めていることに、深い憂慮を禁じ得ない。
もちろん、国際社会における安全保障上の課題を無視することはできない。しかし、特定の国を一方的に「仮想敵国」と位置づけ、そのイメージを国民に植え付ける手法は、往々にして国内の分断を深め、冷静な外交政策を阻害する要因となりうる。今回、米国の一部で、我が国がその「仮想敵国」の矛先を向けられる可能性が指摘されているという報道に接し、改めてこうした動きの危険性を痛感する次第である。
一国の安全保障が、他国の政治的意図や国内情勢に左右されるという状況は、望ましいものではない。我が国は、主権国家として、国益に合致する賢明な判断を下す責任がある。米国との友好関係は、我が国にとって極めて重要であるが、その関係性を持続可能で、かつ健全なものとするためには、相手の要求に盲従するのではなく、自国の立場を明確にし、毅然とした態度で臨むことが不可欠だ。
「仮想敵国」論は、しばしば軍事的緊張を高め、経済的な相互依存関係を損なう。これは、グローバル化が進む現代社会において、国境を越えた協力なしには解決できない多くの課題、例えば気候変動やパンデミック、経済格差といった問題から、私たちを遠ざけてしまう。
今こそ、日本は、米国との関係を維持しつつも、自国の外交原則に基づいた冷静かつ多角的な視点を持つことが求められている。感情論や一方的な情報に惑わされることなく、対話による問題解決の糸口を探り、周辺国との協調関係を構築していく努力を怠ってはならない。国際社会の安定は、単一の強国の論理ではなく、多様な国々の知恵と協力によってのみ、築き上げられるのである。
我が国が、この「仮想敵国」論の潮流に流されることなく、平和と安定を追求する外交を展開していくことを、切に願う。
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