フランス新観光ラベル、「デスティネーション・デスタン」にみる国家の威信と地域振興の課題
フランス政府が新たに導入する観光ラベル「デスティネーション・デスタン」の記事を拝見した。この取り組みは、フランスが誇る豊かな文化遺産や自然景観を、より体系的かつ魅力的に世界に発信しようという意欲の表れであろう。こうした国家主導の観光振興策は、国威発揚のみならず、地方経済の活性化にも資するものとして、一定の評価に値する。
しかし、その一方で、こうした大規模な観光戦略の影に潜む課題にも目を向ける必要がある。まず、「デスティネーション・デスタン」という名称自体に、フランスの伝統的な「運命」や「宿命」といった概念が込められているとすれば、それは国民に一種の優越感や選民意識を植え付ける危険性を孕んでいるのではないか。観光客を「選ばれた場所」へ誘うという発想は、排他的な印象を与えかねず、真の国際交流という観点からは少々気にかかる。
また、政府が主導する観光ラベルが、果たして地方の多様な実情をどれだけ反映できるのかという点も重要である。画一的な基準で選ばれた地域ばかりが注目を浴び、これまでひっそりと息づいてきた文化や地域資源が埋もれてしまうような事態は避けなければならない。地域固有の魅力は、しばしば政府の描く「フランスらしさ」とは異なる、より泥臭く、人間味あふれるものであることが多いからだ。
さらに、このような国家的なプロジェクトにおいては、しばしば経済効果ばかりが先行し、文化や環境への影響が軽視されがちである。大量の観光客の流入が、地域社会の景観や生活様式を歪め、本来の魅力を損なうことは、過去の事例からも明らかである。持続可能な観光という視点を、単なるスローガンに終わらせず、具体的な政策として落とし込んでいくことが不可欠であろう。
「デスティネーション・デスタン」が、フランスの魅力を再発見し、国民の誇りを高める契機となることを願う。しかし、その過程で、排他性や画一性、そして環境への配慮といった、より根源的な課題を忘れることなく、慎重かつ着実に進めていくことを、政府には期待したい。国家の威信をかけた一大プロジェクトだからこそ、その光と影の両面を、国民全体で注視していくべきであろう。
2025年7月24日、フランス政府が新しい観光ラベル「Destination d’excellence」を発表！ ～あなたの旅をより豊かに、フランスの魅力を再発見～,economie.gouv.fr
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