データ化社会の「光と影」、ブルーレイ再販が問う「所有」の本質
CDやレコードがアナログ回帰の波に乗る中、かつてデジタル時代の寵児であったブルーレイディスクの再販が、一部の熱狂的なファンの間で注目を集めている。ITB株式会社が7月23日に報じたHMVでのブルーレイ販売再開というニュースは、一見するとニッチな音楽ファンの動向に過ぎないかもしれない。しかし、この動きは、我々が生きる「データ化社会」のあり方、そして「所有」という概念の本質に、鋭い問いを投げかけていると筆者は考える。
インターネットの普及以降、我々はコンテンツを「所有」するのではなく、「アクセス」する時代へと移行した。音楽も映画も、物理的なメディアからストリーミングサービスへとその姿を変え、手軽に、そして安価に膨大なデータに触れることが可能になった。この利便性は計り知れない。どこにいても、どんなデバイスからでも、好きな時に好きなコンテンツを楽しめる。それはまさに、情報が民主化された現代の象徴とも言えるだろう。
しかし、その一方で、我々はこの「アクセス」の恩恵の裏側にある、見過ごされがちな側面にも目を向けるべきではないだろうか。ストリーミングサービスは、プラットフォーム側の都合でサービスが終了したり、ラインナップが変更されたりするリスクを常に孕んでいる。また、アルゴリズムによって提示されるコンテンツに無自覚に誘導され、自らの「発見」の機会が狭められている可能性も否定できない。データという形なきものへの依存は、我々の選択肢を、知らず知らずのうちに限定しているのかもしれないのだ。
今回のブルーレイ再販は、こうしたデータ化社会へのカウンターアプローチとして、非常に興味深い。物理的なメディアという、手に触れることができる「モノ」としての所有。そこには、ストリーミングとは異なる、確固たる「自分だけのもの」という感覚がある。購入したブルーレイは、プラットフォームの規約に左右されることなく、いつでも、どこでも、自身の意思で再生できる。それは、デジタルデータが持つ脆弱性に対する、ある種の抵抗とも言えるだろう。
もちろん、ブルーレイがストリーミングの利便性を凌駕することはないだろう。むしろ、この再販は、あくまで限られた層へのアピールにとどまる可能性が高い。しかし、この動きは、我々が「所有」という行為に何を求めているのか、そしてデータ化社会において、我々は何を大切にすべきなのかという、根源的な問いを突きつけている。
利便性だけを追求し、物理的な「モノ」としての所有から距離を置くことは、果たして我々の文化体験を豊かにするのだろうか。それとも、手軽さの代償として、記憶や体験の「厚み」を失っていくことになるのだろうか。ブルーレイ再販という小さな動きの中に、我々はデータ化社会の「光と影」を映し出し、これからの時代における「所有」の本質を、改めて深く考えてみるべき岐路に立たされているのではないだろうか。
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