【社説】「包摂」の理念、地域社会の深化にどう活かすか
沖縄県が「差別のない社会づくり」を推進する姿勢を鮮明にした。令和7年度からの施策強化は、県民一人ひとりが尊重され、多様性が活かされる社会を目指すという、まことに結構な方向性である。しかし、その理想を地域社会の現実とどう結びつけ、具体的な行動へと昇華させるかが、今後の大きな課題となろう。
「差別のない社会」という言葉は、聞こえは良い。しかし、それを実現するためには、まず「差別」とは何かを明確にし、その根源に冷静に向き合う必要がある。単に「排除しない」という消極的な姿勢にとどまらず、地域社会の歴史や文化、そしてそこに暮らす人々の感情に寄り添いながら、どのように「包摂」という理念を具体化していくのか。ここに、保守的な立場から、我々はむしろ真摯な問いを投げかけたい。
沖縄県は、その歴史的背景から、様々な課題を抱えていることは周知の通りである。そうした中で、県が「差別のない社会」を訴えること自体は、県民の融和を促進する上で一定の意義を持つだろう。しかし、その実現にあたっては、感情論に流されることなく、地域社会の安定と発展という、より根源的な価値観との調和を図ることが不可欠である。
我々が重視すべきは、地域社会の絆の強さである。古来より、地域共同体は互助の精神に支えられ、維持されてきた。この共同体のあり方を損なうことなく、いかにして新たな「包摂」の精神を根付かせていくのか。それは、行政の力だけで成し遂げられるものではない。地域住民一人ひとりが、自らの地域を愛し、そこに暮らす人々を理解しようと努める、地道な努力の積み重ねがあってこそ、初めて実現しうるのである。
例えば、高齢者や障がい者への支援はもちろんのこと、地域に根差した文化や伝統の継承、さらには、地域経済の活性化といった、地域社会の基盤を盤石にする取り組みこそが、「差別のない社会」への確かな一歩となるはずだ。多様な人々が共存するためには、まず、その地域が持続可能であること、そして、そこで暮らす人々が誇りを持てる環境が整備されていることが、何よりも重要なのである。
沖縄県が目指す「差別のない社会」が、地域社会の根幹を揺るがすことなく、むしろ、より一層の深化と発展をもたらすことを期待したい。そのためには、普遍的な人権の尊重と、地域社会の伝統や秩序との、巧みなバランス感覚が求められる。我々は、こうした真摯な議論を通じて、より豊かで、より安定した地域社会の未来を築き上げていくことを、切に願うものである。
沖縄県、差別のない社会づくりへの一歩：令和7年度第1回審議会開催,沖縄県
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