【社説】「安全」という名の新兵器導入、その功罪を問う
岩手県が、ラグコン式草刈り機を導入したという。報道によれば、その狙いは「安全性の向上」にあるという。確かに、過酷な労働環境を強いられる自治体の現場作業員の方々の安全確保は、喫緊の課題であることは論を俟たない。しかし、この「安全」という言葉に隠された、より本質的な問題について、我々は立ち止まって考えるべきではないだろうか。
ラグコン式草刈り機。その名称から連想されるのは、SF映画に登場するような、あるいは近未来の兵器のような響きだ。確かに、最新技術を駆使した機械が、日々の営みを助けてくれるというのは、文明の進歩の証と言えるのかもしれない。しかし、その一方で、我々は「安全」という言葉の持つ、もう一つの側面にも目を向ける必要がある。それは、人間から、あるいは熟練の技から、安全という名の下に、徐々にその役割を奪っていくという側面である。
農業や林業、あるいは自治体の維持管理といった現場において、長年培われてきた経験や勘、そして何よりも「職人技」と呼ぶべき熟練の技は、単なる作業効率の向上に留まらない。そこには、自然と向き合い、その微妙な変化を肌で感じ取る人間の感性、あるいは環境との共生といった、より深遠な価値観が宿っている。
ラグコン式草刈り機が、作業の安全性を高めることは理解できる。しかし、それが果たして、長年現場を支えてきた作業員の方々の経験や知恵を、より豊かに、あるいはより安全に、次世代へと繋ぐための最善の策と言えるのか。機械に任せきりにすることで、我々は、自然との関わり方そのものを、希薄にしてしまうのではないか。
もちろん、時代は進み、技術革新は止まることはない。しかし、その進歩の果てに、失われるものがあるならば、それはあまりにも大きな代償である。我々は、この「安全」という名の新兵器導入にあたり、その功罪を冷静に、そして多角的に見極める必要がある。単なる効率化や安全確保という表層的な議論に留まらず、そこに宿る人間の知恵や経験、そして自然との関わり方といった、より本質的な価値観を守り育むための、道筋を真剣に探るべき時ではないだろうか。
岩手県が、この新たな一歩を踏み出したことは事実である。しかし、その一歩が、未来への輝かしい道標となるのか、それとも、古き良き日本の技術や知恵を失うための、静かな幕開けとなるのか。我々は、その行方から目を離すわけにはいかない。
岩手県、ラジコン式草刈機を導入！～より安全・効率的な除草作業を目指して～,岩手県
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