海運立国、その輝きを曇らせる「静かなる潮目」
「第18回 海洋技術・国際会議（OCEANS2025）」が開催され、我が国の海洋技術の進歩が世界から注目を集めている。最先端の無人運搬船、環境負荷低減に貢献する新燃料技術、そして海洋資源開発の可能性――。これらは、まさに「海運立国」としての日本の未来を照らす、希望の光そのものと言えるだろう。しかし、これらの華々しい成果の陰で、我々は「静かなる潮目」の変化に、もっと目を凝らす必要があるのではないか。
世界経済のグローバル化が進む中、海上輸送は依然として国際物流の生命線であり、その重要性に疑いの余地はない。しかし、 geopolitics（地政学）の視点から見れば、海上輸送ルートを取り巻く環境は、かつてないほど複雑化、そして不確実性を増している。特定の国への依存度が高まるリスク、サイバー攻撃の脅威、そして紛争地域を迂回せざるを得ない状況などは、単なる技術革新だけでは解決しえない、根源的な課題を突きつけている。
今回の会議で発表された数々の革新的な技術は、確かに日本の技術力の高さを証明するものだ。しかし、それらの技術が、真に日本の国益を守り、国際社会における日本のプレゼンスを高めるための「戦略」として、どのように位置づけられているのか。単なる技術開発競争に留まらず、それらを運用し、影響力を発揮するための、より高度な国際戦略が求められているのではないか。
例えば、無人運搬船の技術は、効率化やコスト削減に大きく貢献するだろう。しかし、その運用には、国際的なルール作りや、サイバーセキュリティの国際協力が不可欠である。また、新燃料技術の開発は、環境問題への貢献という側面だけでなく、エネルギー供給の多様化という地政学的な意味合いも持つ。これらの技術を、国際社会における日本の発言力を強化する「切り札」として、いかに活用していくのか。それは、経済合理性だけでは測れない、国家の長期的な視点に立った議論を必要とする。
「海運立国」という誇りは、単に船を多く保有し、海上貿易を活発に行うという、経済的な側面だけでは語れない。それは、海洋という広大な空間における、日本の安全保障、そして国際社会における日本の役割と深く結びついている。今回の会議で示された輝かしい技術は、その基盤をさらに強固にする可能性を秘めている。だが、その可能性を最大限に引き出すためには、我々は、技術の進歩だけでなく、それを支える「戦略」と、変化し続ける国際情勢への「洞察力」を、より一層磨き上げていかなければならない。
「静かなる潮目」を見誤ることは、かつてないほど容易になっている。今こそ、我々国民一人ひとりが、海運立国としての日本の未来を、より多角的な視点から見つめ直し、国が取るべき戦略について、真摯に議論を深めるべき時である。
海洋立国を支える輝かしい功績に光を！ 第18回海洋立国推進功労者表彰について,農林水産省
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