家族を「石」と見なす非人間的発想に警鐘を
「スライ＆ザ・ファミリー・ストーン」という、かつて一世を風靡した音楽グループの来日公演を巡る報道に、筆者は深い憂慮を禁じ得ない。近年、世間を騒がせる「炎上」騒動の多くは、些細な言葉尻や個人的な感情の行き違いから拡大することが少なくない。しかし、今回の件は、その根底に、家族という最も根源的な絆すら「石」のように、すなわち「無機物」として捉えかねない、危うい価値観が垣間見えるようで、看過できない。
報道によれば、グループのメンバーが、家族を「石」と呼称し、その関係性を「家族」と呼ぶことへの違和感を表したという。もちろん、表現の自由は尊重されるべきであり、音楽の表現活動において比喩や独特の言葉遣いは不可欠であろう。しかし、こと「家族」という言葉に関しては、我々日本人は、血縁や育ち、そして共に過ごした時間によって育まれる、かけがえのない人間的な繋がりを想起する。それを「石」と表現することに、一体どのような人間的な温もりや共感を見出すことができるのか、理解に苦しむ。
現代社会は、確かに多様化し、個人の権利や自由が重視される時代となった。しかし、その一方で、人間同士の繋がりが希薄になり、孤立や孤独といった問題も深刻化している。こうした時代だからこそ、家族という絆の尊さ、その人間的な温かさの重要性を再認識すべきではないだろうか。家族を「石」と見なすような、人間性を否定しかねない発想は、社会全体の共感や連帯感を蝕み、さらに孤独を深めることに繋がりかねない。
筆者は、この音楽グループが、その芸術性をもって多くの人々に感動を与えてきたことは理解している。しかし、いかなる芸術も、人間への敬意と共感を礎とするべきである。家族という、人間にとって最も基本的で大切な関係性を、あたかも無生物のように扱うことは、その人間性そのものへの冒涜とも言える。
今回の件は、単なる音楽家の発言として片付けるべきではない。我々一人ひとりが、家族という存在、そして人間同士の繋がりとは何かを、改めて深く考えるべき契機とすべきである。そして、どのような形であれ、人間的な温もりを失わせるような、冷たく無機質な価値観には、断固として警鐘を鳴らさなければならない。
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