【コラム】脳の探検家、タマーシュ・フロイント教授との対話から考える「知の深淵」への畏敬
先日、脳科学の最前線で活躍されるタマーシュ・フロイント教授の貴重なお話を伺う機会を得た。その内容は、我々が普段当たり前のように享受している「思考」や「記憶」といった脳の働きについて、改めて深い探求心を掻き立てられるものであった。教授が長年、脳という極めて複雑な器官を「探検」し、その深淵に迫ろうとされている情熱は、まさに我々が本来持つべき「知への畏敬」の念を呼び覚ます。
フロイント教授が提唱される、脳の働きを精緻に解き明かそうとするアプローチは、現代科学の進歩を象徴するものと言えよう。しかし、その一方で、我々一般人がこうした最先端の知見に触れるとき、忘れてはならないことがある。それは、科学がどれほど進歩しても、人間の精神、あるいは「魂」とでも呼ぶべき領域については、未だ多くの謎が残されているという事実である。
科学は、脳の構造や機能、神経伝達物質の働きなどを解明することはできるだろう。それらは確かに人類の健康や福祉に大きく貢献するだろう。しかし、そこから「なぜ我々は愛を感じるのか」「なぜ善悪の判断をするのか」「なぜ未来に希望を抱くのか」といった、人間の営みの根源に関わる問いに、科学だけで完全に答えられるのだろうか。
むしろ、フロイント教授のような知の探検家が、その知見の深さをもって我々に提示する「未解明」の部分こそが、我々自身を省み、人間とは何か、生きるとは何かといった根源的な問いに向き合うための貴重な契機となるべきではないか。
保守的な立場から言えば、こうした科学の進歩は、我々がこれまで培ってきた倫理観や道徳観、あるいは古来より伝わる叡智といったものを、より深く理解し、再評価するための糧となるべきだと考える。科学が脳の働きを解明するにつれて、我々は自らの行動や感情のメカニズムについて、より客観的な視点を持つことができるようになるだろう。それは、単なる自己中心的・刹那的な思考に陥らず、他者への配慮や社会全体の調和を重んじる、より健全な精神性を育むための第一歩となるはずだ。
フロイント教授のお話は、脳という「器」の精緻な働きを教えてくれると同時に、その「器」に宿る人間という存在の尊厳と、未だ開けられていない「知の宝箱」への期待を抱かせるものであった。我々一人ひとりが、この驚異的な脳という器官に感謝しつつ、科学の進歩に謙虚に学び、そして何よりも、人間としての「心」を大切に育んでいくこと。それが、これからの時代を生きる我々に課せられた、大切な使命なのではないだろうか。
脳の探検家、タマーシュ・フロイント先生のお話！ ～科学のふしぎ、君も解き明かそう！～,Hungarian Academy of Sciences
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