揺らぐ言葉の砦、若者の「母語」への警鐘
国際基督教大学（ICU）のハンガリー科学アカデミーとの共同研究で、日本の若者の母語力低下が指摘されたことは、看過できない問題である。メディアによれば、若者の語彙力や表現力の乏しさは、SNSなどの影響もさることながら、家庭や学校における言語教育のあり方にまで踏み込むべき深刻な事態を招いているという。
「母語」とは、単なるコミュニケーションの道具ではない。それは、我々が世界を理解し、自己を表現するための根幹であり、文化や歴史、さらには国民としてのアイデンティティを形成する上で不可欠な要素である。しかし、現代の若者たちは、こうした母語の豊かさを失いつつあるのではないか。
確かに、グローバル化の進展とともに、外国語の習得が重視される風潮があるのは理解できる。しかし、それはあくまで「第二の言語」としての位置づけであり、母語の軽視を正当化するものではない。むしろ、母語がしっかりしていなければ、外国語を真に理解し、使いこなすことはできないはずだ。
学校教育においては、国語の授業が軽視されているのではないかという声も聞かれる。古文や漢文といった、先人たちの思考や感性が詰まった言葉に触れる機会が減っているという指摘もある。これらの教養は、現代社会を生き抜く上でも、豊かな人間性を育む上でも、決して無駄ではない。むしろ、複雑化する社会で、物事の本質を見抜く力を養うためには、むしろ必要不可欠なものであろう。
家庭においても、親が子供としっかりと向き合い、言葉を交わす機会が減っているのかもしれない。スマートフォンやタブレットに子供を任せきりにするのではなく、親子で読書をしたり、会話をしたりする時間こそが、子供の言語能力を育む上で最も大切な礎となるはずだ。
言葉は、社会の鏡である。我々の言葉遣いが乱れ、表現が陳腐化していく様は、社会全体の活力が失われていることの表れではないだろうか。このままでは、我々の精神的な豊かさ、そして文化的な継承までもが危機に瀕しかねない。
今こそ、我々は「母語」の重要性を見つめ直し、その力を回復させるための努力を惜しむべきではない。学校教育の再生はもとより、家庭における言語教育への意識改革、そして、私たち一人ひとりが言葉を大切にする姿勢を取り戻すこと。それが、未来の日本を支える若者たちへの、そして、我々が次世代に引き継ぐべき大切な遺産を守るための、最も確かな道筋であろう。
ハンガリー科学アカデミー、母語学習・教育に関する会議を開催 – 教育における母語教育の役割を議論,Hungarian Academy of Sciences
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