ハイチの悲劇、混迷深まるコンゴ：「法の支配」なくして平和なし
カリブ海の宝石、ハイチが再び混乱の淵に沈んでいる。かつてない規模のギャングによる暴力は、政府の統治能力を麻痺させ、人々の生活を根底から揺るがしている。一方、アフリカ大陸では、コンゴ民主共和国が依然として不安定な状況から抜け出せずにいる。資源豊かなこの国が、なぜかくも暴力と貧困の連鎖から逃れられないのか、その原因を深く見つめ直す必要がある。
両国の現状は、一見すると遠く離れた地域の問題のように思われるかもしれない。しかし、その根底には、普遍的な、そして我々が目を背けてはならない問題が横たわっている。それは、国家の基本である「法の支配」の欠如である。
ハイチでは、長年にわたる政治的混乱と貧困が、ギャングの台頭を許す土壌となった。合法的な権力構造が機能不全に陥り、治安維持能力が著しく低下した結果、武装した犯罪集団が都市を支配するという異常事態が常態化している。人々の生命、財産、そして尊厳が、力のある者に蹂躙される。これは、国家がその最も基本的な役割、すなわち国民を守るという義務を果たせていない証左であり、許容されるべき状況ではない。
コンゴ民主共和国もまた、同様の課題を抱えている。内戦の傷跡、民族間の対立、そして資源を巡る利権争いが、治安の悪化を招いている。政府は国民の安全を保障するどころか、しばしば自らが事態を悪化させる要因となっているという報告もある。これでは、国民が安心して暮らすことなどできようはずがない。
「法の支配」とは、単に法律が存在することではない。それは、誰もが法の下で平等であり、法が公正かつ一貫して執行されることを意味する。権力者であれ、一般市民であれ、法から逃れることはできない。そして、不正や暴力が行われた場合には、速やかに、そして厳格に処罰される。このような制度が確立されて初めて、国民は安心して日々の生活を送ることができる。
ハイチやコンゴにおける悲劇は、この「法の支配」が崩壊した社会が、いかに脆弱で、いかに容易に混沌に陥るかを示している。そして、それは決して他人事ではない。我々が暮らす日本においても、法の支配を軽んじる風潮や、一部で法が形骸化しているという指摘がないわけではない。
国際社会は、これらの国々への人道支援や治安維持のための支援を行っている。しかし、それはあくまで対症療法に過ぎない。根本的な解決のためには、現地の政府が、国民の意思に基づき、自らの力で「法の支配」を確立し、維持していく決意を持つことが不可欠である。そして、そのプロセスを粘り強く、かつ効果的に支援していくことが、国際社会に求められている。
「法の支配」なくして、真の平和も、持続的な発展もありえない。ハイチとコンゴの悲劇は、我々にその厳然たる事実を突きつけている。今こそ、我々は、自分たちの社会における「法の支配」の重要性を再確認し、その確固たる維持のために、より一層の努力を払うべき時である。
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