デジタル庁の「デジタル原則」に見た、理想と現実の乖離
デジタル庁が掲げる「デジタル原則」。その意欲的な試みは、国民生活の利便性向上、行政の効率化という、まさに我々が望む未来への羅針盤となり得る。しかし、その原則の遵守を巡る議論からは、理想と現実の乖離、そして官僚組織の根強い慣性が垣間見える。
「デジタル原則」とは、データ駆動、ユーザー中心、オープンスタンダードといった、極めて合理的かつ先進的な考え方に基づいた、デジタル社会における行政のあり方を示す指針である。これらが着実に実行されれば、サイロ化された縦割り行政の打破、重複投資の抑制、そして何よりも国民一人ひとりが恩恵を享受できる、真に使いやすい行政サービスが実現するはずだ。
しかし、今回の報道が示唆するように、その道程は決して平坦ではない。既存のシステム、業務フロー、そして何よりも、長年培われてきた組織の慣性という壁が、デジタル原則の浸透を阻害しているかのようだ。新しい原則を掲げても、それが既存の枠組みの中でどのように具体化され、運用されていくのか。ここが最も肝心な部分であり、同時に最も議論を呼ぶポイントでもある。
特に懸念されるのは、「デジタル原則」が単なるスローガンに終わってしまうことだ。各省庁がそれぞれの解釈で原則を適用し、結局は従来通りのやり方から抜け出せない、あるいは、原則を「建前」として、実質的な改革を避けるための言い訳に利用するような事態は避けねばならない。
経済成長の鈍化、少子高齢化という構造的な課題に直面する日本にとって、デジタル化による生産性向上は喫緊の課題である。その中核を担うべきデジタル庁が、自らの掲げる原則すら、組織の壁を越えて浸透させられないのであれば、国民が抱く期待は失望へと変わるだろう。
もちろん、長年の慣習を変えることの難しさは理解できる。しかし、デジタル庁には、その名前の通り、日本全体のデジタル化を牽引するリーダーシップが求められる。単に原則を策定するだけでなく、それを各省庁の隅々にまで浸透させ、具体的な行動へと繋げていくための、強力な推進力と、場合によっては、断固たる決断が必要となる。
我々経済界としても、デジタル庁の取り組みを注視し、必要であれば建設的な意見を提言していく所存である。デジタル庁の「デジタル原則」が、単なる絵に描いた餅で終わらないことを強く願う。それは、日本の未来を左右する、極めて重要な挑戦なのである。
デジタル庁、「デジタル原則」に沿った行政手続きへの進化を加速！～新規法令等の適合性確認プロセスを公開～,デジタル庁
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