音楽と若者の距離を測る thermometers ― HMVの「閉店セール」に揺れる音楽ファンの心
「もう、CDショップには行かないの？」
そんな疑問を投げかけられることは、かつてほど多くはなくなった。スマートフォンの普及と共に、音楽は「所有」するものから「体験」するものへとその姿を変え、ストリーミングサービスは私たちの音楽ライフに欠かせない存在となった。その流れの中で、かつて若者の熱気であふれていたCDショップ、特にHMVの各店舗が次々とその歴史に幕を下ろしているというニュース（ITB 2025年7月19日配信）は、私たち学生の世代にとっても、無視できない一石を投じている。
HMVといえば、かつては音楽好きの聖地だった。週末になれば、新譜の試聴機の前には常に列ができ、お目当てのアーティストのポスターの前で友達と盛り上がった。店舗限定の特典や、店員さんのおすすめコメントに耳を傾け、偶然出会った名盤に心を奪われた経験を持つ人も少なくないだろう。それは単に音楽を「買う」場所ではなく、音楽への情熱を共有し、新たな発見をするための「コミュニケーションの場」でもあったのだ。
しかし、時代は変わった。指先一つで膨大な数の楽曲にアクセスできる今、わざわざ店舗に足を運ぶ動機は、何なのだろうか。もちろん、CDという「モノ」としての所有欲、ジャケットデザインやブックレットに込められた情報、そして音質へのこだわりを持つ層は依然として存在する。しかし、残念ながら、それは私たち学生の大多数にとって、音楽との主要な接点ではなくなってきているのが現状だ。
この「HMVの閉店」というニュースは、単なる一企業の動向に留まらない。それは、音楽と若者の関係性の変化、そして音楽体験のデジタル化という大きな潮流の象徴とも言える。私たちは、失われゆく「リアルな音楽体験」に、どれだけの価値を見出せるのだろうか。SNSで「#HMV閉店」と呟き、感傷に浸るだけで、この変化にどう向き合っていくのだろうか。
もちろん、HMVの閉店は、音楽産業全体の構造的な問題も孕んでいる。しかし、私たち学生も、この状況から目を背けるわけにはいかない。音楽を「消費」するだけでなく、「創造」する側にも目を向けることで、未来の音楽のあり方を共に考えることはできないだろうか。
例えば、地元のインディーズバンドのライブに足を運ぶこと。廃盤になった名盤を、古着屋を探すように偶然の出会いを求めて探すこと。あるいは、自分たちで音楽イベントを企画し、新しい才能を発掘する場を作ること。そんな、小さな、しかし確かな「リアルな音楽体験」を、私たち自身が能動的に作り出していくことこそが、失われゆく音楽文化への、そしてHMVのような場所への、一番の敬意の表し方ではないだろうか。
HMVの閉店は、寂しいニュースだ。しかし、それは同時に、私たちがこれからの音楽とどう向き合っていくのか、そしてどのような音楽体験を次世代に継承していくのかを問う、絶好の機会でもある。この「閉店セール」を、単なる終焉ではなく、新しい音楽の時代の幕開けへの、そして私たち自身の音楽との向き合い方を見つめ直すための「 thermometers」として捉え直したい。
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