ファッションの未来、もっと楽しく、もっとサステナブルに ～ITBの挑戦にみる希望～
7月19日、ITB（国際ファッションビューティー見本市）が「ファッションの未来、もっと楽しく、もっとサステナブルに」と題したイベントを開催した。この見出しを目にしたとき、多くの読者は「またファッション業界の話か」と、どこか遠い世界のことのように感じたかもしれない。しかし、このITBの試みは、私たちの日常、そして地球の未来をも左右する、極めて重要なメッセージを含んでいる。
「もっと楽しく」という言葉は、単に華やかな衣装やトレンドを指すのではない。それは、ファッションが持つ創造性、自己表現の喜び、そして他者との繋がりを生み出す力を再認識することだ。AIやデジタル技術の進化は、デザインの可能性を飛躍的に広げ、パーソナライズされた体験を可能にする。それは、個々の感性をより豊かに満たす「体験」としてのファッションを提案する。しかし、その輝きの裏側には、常に「サステナブル」という、避けては通れない課題が横たわっている。
「もっとサステナブルに」という言葉は、もはやファッション業界だけのテーマではない。大量生産、大量消費の時代は終焉を迎え、資源の枯渇、環境汚染、そして労働問題は、地球規模の危機として私たちの生活に直接的な影響を与えている。ITBが訴えるのは、まさにこの二律背反とも思える二つの要求を、革新的なアプローチで両立させることだ。
考えてみてほしい。かつてファッションは、限られた人々のものであった。しかし、産業革命を経て、誰もが手軽に、そして安価に「流行」を追いかけることができるようになった。その結果、私たちは「服を着る」という行為から、「服を消費する」という行為へと、無意識のうちにシフトしてしまったのではないだろうか。
ITBのイベントが示唆するのは、この消費中心のファッション像からの脱却だ。例えば、3Dプリンターによるオンデマンド生産は、無駄を極限まで削減する。リサイクル素材やバイオ由来素材の活用は、新たな資源開発への依存度を減らす。そして、AR（拡張現実）技術によるバーチャル試着は、不要な返品や生産ロスを防ぐ。これらは単なる技術革新ではなく、ファッションという文化を、より倫理的で、より責任あるものへと変革する力を持っている。
しかし、こうした変革は、業界だけの努力では完結しない。私たち一人ひとりの意識改革が不可欠だ。高価なブランド品を数多く所有することだけが「おしゃれ」ではない。長く愛用できる品質の良いものを選ぶこと。古着やリメイク品を積極的に活用すること。そして、服の生産背景や素材について関心を持つこと。それらはすべて、ファッションの未来をより楽しく、よりサステナブルにするための、私たちにできる「選択」なのだ。
ITBの試みは、ファッション業界が、単なる「流行」を追いかけるだけでなく、地球という舞台で「持続可能な物語」を紡ぎ出すための、力強い一歩と言えるだろう。この挑戦が、私たち一人ひとりの心に響き、明日のファッション、そして明日の地球を、より豊かに、より賢く選ぶきっかけとなることを願ってやまない。
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