空と戦場を繋ぐ新時代：ドローン技術の軍事転用が描く未来への警鐘
本紙が伝えるところによれば、株式会社ＩＴＢは、来たる9月、『軍用ドローンの基本』と題する書籍を刊行するという。このニュースは、単なる技術書の新刊情報にとどまらず、我々の社会が静かに、しかし確実に変容していく様を映し出している。かつてSFの世界の住人であった「ドローン」という存在が、今や軍事という極めて現実的な領域でその基盤を固めつつあるのだ。
ドローン、すなわち無人航空機。その黎明期には、災害時の情報収集や物流の効率化といった、我々の生活を豊かにする可能性を秘めた技術として語られてきた。しかし、その進化は目覚ましく、高度なセンサー技術、AIによる自律制御、そして何よりも「無人」であるがゆえのリスク軽減という利点が、軍事分野におけるその採用を加速させている。偵察、監視、そして攻撃。かつて人間が危険な任務に赴いていた領域を、機械が代替する時代が、もうすぐそこまで来ている。
この軍用ドローンの普及は、戦いのあり方を根底から変えるだろう。兵士の命が失われるリスクは低下するかもしれない。しかし、それは同時に、人道的側面から見れば、より「容易に」戦争を開始できる環境を生み出すのではないかという懸念を抱かせる。遠隔操作されたドローンが、ボタン一つで敵を無力化する。その冷徹さは、戦場の悲惨さを人々の意識から遠ざけ、紛争への敷居を低くする可能性はないだろうか。
さらに、この技術は軍事領域に留まるものではない。一度確立された軍事技術は、必ずや民生分野へと波及する。そのスピードと規模は、我々の想像を遥かに超えるかもしれない。高度な監視能力を持つドローンが、社会のあらゆる隅々まで見通すようになる日も、そう遠くない未来に訪れるかもしれないのだ。プライバシーの侵害、監視社会の到来。技術の進化がもたらす「便利さ」の影に、潜む危険性を見逃してはならない。
『軍用ドローンの基本』という書名が示すように、この技術はすでに「基本」として語られる段階にある。それは、私たちがこの新しい現実に、もっと真摯に向き合わなければならない時が来たことを意味する。軍事技術の進歩は、常に倫理的な問いとセットで語られるべきである。そして、その問いに対する答えは、技術者のみならず、私たち一人ひとりが考え、議論していく責任がある。
空を支配する者は、地上を支配する。これは古来より変わらぬ真理である。しかし、その「空」を、機械が、しかも人間が直接その身を晒すことなく支配しようとしている。この新しい時代に、我々がどのような未来を選択するのか。ＩＴＢの新刊は、その大きな問いを、静かに、しかし力強く私たちに突きつけている。
芙蓉書房出版『軍用ドローンの基本』が『JWING』9月号で紹介！ 現代戦の必須兵器、その全貌に迫る,芙蓉書房出版
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