欧州の「多様性」という名の危うい傾斜、日本は岐路に立つ
ドイツを筆頭に、欧州各国で「裁断手続」の進展が報じられている。これは、出生前診断によって胎児の性別や染色体異常の有無が判明する現代にあって、意図的に「男女比の均衡」や「健康な子孫」の育成を目指そうという、一見すると合理的とも思える試みである。しかし、その背後には、人間という生命の根源に対する、無視できない危険な思想が潜んでいることを、我々日本人は深く憂慮しなければならない。
この「裁断手続」なるものは、究極的には「望ましい」「望ましくない」という人間による価値判断を、胎児という不可侵な存在にまで及ぼそうとするものである。出生前診断の技術進歩は、確かに医療の進歩であり、胎児の健康を守る上で重要な役割を果たす。しかし、その情報をもって生命の選択を行うことは、我々が長年培ってきた生命尊重の倫理観に真っ向から反する行為と言わざるを得ない。
欧州が「多様性」の名の下に、このような人間中心的な生命操作に傾倒していく様は、自由主義という名の、時に危うい傾斜を内包していることを示唆している。彼らは、個人の権利や選択の自由を最大限に尊重するあまり、生命の尊厳という、より根源的な価値観を見失いつつあるのではないか。
翻って我が国に目を向ければ、少子高齢化という喫緊の課題に直面している。将来、このような欧州の動向が日本に波及しないとは限らない。もし、我々が「望む性別」や「望む健康状態」の子供だけを求めるようになれば、それは、社会全体の「多様性」を著しく損なうだけでなく、命の選別という、倫理的に許容しがたい状況を招来しかねない。
「裁断手続」という言葉の響きに、一見すると科学的で進歩的な響きを感じるかもしれない。しかし、その内実には、人間の傲慢さと、生命に対する無理解が透けて見える。我々は、欧州の動向を単なる遠い国の出来事として傍観するのではなく、日本の未来、そして人間という生命のあり方そのものについて、真摯に議論を深めるべき時である。技術の進歩は、倫理の羅針盤なしには、我々を容易に危うい道へと導くのである。
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