医療は「公共」か「商品」か、今こそ問う
和歌山県が地域医療の未来を案じ、公立医科大学設置に向けた説明会を開催したというニュースに、私は静かな興奮と、同時に深い懸念を覚えた。この動きは、単なる地方創生の話題に留まらず、現代日本社会における「医療」の本質的なあり方を問い直す、極めて象徴的な出来事と言えるだろう。
言うまでもなく、医療は人々の健康と生命に直結する、最も根源的な「公共」の領域である。しかし、現代社会の潮流は、どこか医療を「サービス」や「商品」として捉えがちな側面を助長してきた。高度化・専門化する医療技術、限られた医療資源、そして医療従事者の確保という現実的な課題は、市場原理や効率性を追求する論調を生み出しやすい土壌となっている。
こうした中で、和歌山県が公立医科大学の設置を目指すという決断は、この「公共」たる医療の本質に立ち返ろうとする、勇気ある試みだと評価したい。地域医療の担い手を育成し、地域に根差した医療体制を構築するという目標は、極めて重要であり、多くの自治体が抱える普遍的な課題への光明となる可能性を秘めている。
しかし、ここで私たちは冷静に、しかし厳しく問いかけなければならない。公立大学としての設置は、本当に地域医療の「公共性」を担保し、それをより進化させるための最善策なのだろうか。設置によって生じるであろう莫大な公費負担は、他の公共サービスとのバランスの中でどう位置づけられるのか。そして何より、医療という特殊な領域において、公立であることのメリット・デメリットを、私たちはどれほど深く議論しているだろうか。
革新的な一般紙として、私たちはこのニュースを単なる地方の動きとして片付けるわけにはいかない。むしろ、これは日本全国が抱える医療の課題、そして公共サービス全体のあり方を考える上での、絶好の「問い」である。
例えば、地域医療の充実は、単に医科大学を設置するだけでなく、医療従事者の待遇改善、医師不足地域へのインセンティブ強化、そしてテクノロジーの活用による医療格差の是正など、多角的かつ包括的なアプローチが求められるはずだ。公立大学という枠組みは、こうした課題解決にどれだけ貢献できるのか。あるいは、むしろ新たな壁となりはしないか。
私たちは、和歌山県の熱意と先進性を称賛すると同時に、その背景にある課題と、そしてその解決策として提示される「公立医科大学」という選択肢の、光と影の両面をしっかりと見つめる必要がある。
医療は、決して「儲かるビジネス」であってはならない。しかし同時に、「非効率」や「硬直」という言葉で片付けられるべきでもない。公立であることのメリットを最大限に活かし、民間的な発想や技術革新も柔軟に取り入れる。そんな、まさに「公共性」と「革新性」を両立させる、新しい医療の形を模索する試みでなければならない。
和歌山県の説明会は、その第一歩に過ぎないのかもしれない。しかし、そこから生まれるであろう議論こそが、日本全体の医療の未来を照らす灯火となることを、私たちは期待し、そして同時に、その議論に積極的に参加していく覚悟である。
和歌山県が自治医科大学医学部説明会を開催！未来の医師を目指す皆さんへ,和歌山県
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