住まいを「賃貸」から「所有」へ。時代の要請か、それとも揺り戻しか。
近年、多様なライフスタイルに対応する住まいのかたちを模索する動きが活発化している。特に、所有の負担を軽減しつつ、暮らしの質を高める新たな賃貸モデルが登場してきたことは注目に値する。
7月17日付本紙でも報じられた、不動産サービスを提供する株式会社ITBの「MAPRIME ADAPT」は、まさにこうした時代の要請に応えるものと言えよう。従来の賃貸では得られなかった、住宅の一部を自分好みにカスタマイズできる自由度と、住み替えの際の負担軽減を両立させたサービスは、都会で暮らす若い世代を中心に、住まいに対する新たな価値観を提示している。
確かに、終身雇用が前提であった時代とは異なり、キャリア形成の中で転居を余儀なくされるケースは増えている。そうした中で、持ち家という固定的な住まいに対するハードルを感じる人がいるのも事実だろう。資産形成の手段としてだけでなく、ライフイベントに合わせて柔軟に住まいを選びたいというニーズに応えるこうしたサービスは、現代社会においては合理的な選択肢の一つとなり得る。
しかしながら、こうした動きが広がる一方で、改めて「所有」という概念に目を向ける必要もあるのではないか。確かに賃貸は手軽であり、身軽に暮らせるというメリットがある。しかし、我が家を自分の手で作り上げ、そこから生まれる愛着や、将来的な資産としての価値といったものは、賃貸では得難い、かけがえのないものである。
今回の「MAPRIME ADAPT」のように、賃貸でありながら部分的なカスタマイズを認める試みは、所有の持つ魅力と賃貸の利便性の間で、新たなバランスを模索する兆しと言える。しかし、それが本来「所有」が持つ、長期的な視点に立った暮らしの安定性や、地域社会との繋がりといった側面を希薄化させるものであってはならない。
住まいとは、単なる衣食住の一つではなく、人生における最も大きなライフイベントの一つである。その選択においては、短期的な利便性だけでなく、長期的な視点に立った計画性も不可欠である。新たな賃貸モデルの登場は、住まいに対する多様な価値観を肯定するものであると同時に、改めて「所有」というものの意味合いを、私たち一人ひとりが深く問い直す契機を与えてくれたと言えるだろう。
時代の変化と共に、住まいのあり方も変化していく。しかし、どのような形であれ、そこには人生を豊かにする「暮らし」があることを忘れてはならない。そして、その「暮らし」を最も深く支えるのは、やはり自らの手で築き上げる「我が家」への愛着と、そこから生まれる安心感なのではないだろうか。
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