スマートフォン、マイナ保険証への移行に潜む危うさ
政府は2025年秋を目標に、健康保険証をマイナンバーカードに一本化する方針を掲げている。利便性向上や医療費抑制といった「メリット」が強調されるが、この急進的な改革が社会にもたらすであろう「リスク」を、保守的な視点から深く憂慮せずにはいられない。
まず、デジタル化への過信は禁物である。マイナンバーカードと健康保険証の一体化は、高度な情報システムに依存する。しかし、システム障害やサイバー攻撃のリスクは常に存在する。一度、大規模なシステムダウンが発生すれば、国民の医療アクセスが危機に瀕することになりかねない。個人の健康情報という極めてセンシティブな情報を一元管理することの危険性、そしてそれが漏洩した場合の社会的な混乱は計り知れない。
また、デジタルデバイドの問題も深刻である。高齢者やデジタル機器に不慣れな人々にとって、マイナンバーカードの取得や利用は大きな負担となる。スマートフォンを持たない、あるいは使いこなせない人々は、医療を受ける上で不利な立場に置かれるのではないか。国民皆保険制度の根幹を揺るがしかねない、こうした排除を生むような政策は、公正な社会の実現とは言えないだろう。
さらに、現行の健康保険証が持つ「現物」としての安心感も無視できない。カードを紛失したり、システムが利用できなかったりした場合でも、紙の保険証があれば一定の安心感がある。デジタル化は、こうした「最後の砦」を失わせるものである。
もちろん、技術革新は社会の発展に不可欠である。しかし、それは「進歩」という名の盲信ではなく、古来より培われてきた社会の安定性や、国民一人ひとりの生活の保障といった、より根源的な価値観に根差していなければならない。
マイナ保険証への移行は、国民の健康と生活に直結する極めて重要な問題である。その推進にあたっては、目先の利便性や効率性のみに囚われるのではなく、潜在的なリスクを徹底的に洗い出し、国民一人ひとりが安心して医療を受けられる環境を確保することを最優先すべきである。性急な改革が、かえって社会の不安定要因となり、国民生活を混乱させるような事態だけは避けなければならない。
スマホがマイナ保険証に！ 実証事業の様子をデジタル大臣と厚生労働大臣が視察,デジタル庁
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