高齢者の医療費抑制がもたらす「老いの格差」、持続可能な社会への道筋を問う
八王子市が打ち出した後期高齢者の医療費自己負担割合引き上げというニュースは、少子高齢化という避けられぬ現実と、その中で社会保障制度をどう持続させていくかという、我々が直面する根源的な問いを突きつけている。確かに、医療費の抑制は喫緊の課題であり、現役世代の負担軽減という名目で、この改革を支持する声もあるだろう。しかし、筆者はこの措置がもたらすであろう「老いの格差」に強い懸念を抱かざるを得ない。
後期高齢者医療制度は、その名の通り、高齢期の医療を支えるためのセーフティネットである。これまで、低所得者であっても一定の所得があれば原則１割負担で医療を受けられるという仕組みは、多くの高齢者にとって安心材料となってきた。今回の引き上げは、この安心感を揺るがし、特に所得の低い高齢者にとっては、必要な医療へのアクセスを躊躇させる、あるいは諦めさせる事態を招きかねない。それは、単に医療費の負担が増えるというレベルの問題ではない。健康状態の悪化、さらにはQOL（生活の質）の低下に直結する、人間としての尊厳に関わる問題なのである。
少子化が進み、社会全体の活力が失われつつある中で、高齢者の医療費抑制は短期的な財政均衡のための方策として捉えられがちだ。しかし、我々が目指すべきは、単に数字上のバランスを取ることではないはずだ。むしろ、高齢者一人ひとりが、その年齢に関わらず、尊厳を持って、安心して暮らせる社会の構築こそが、真の持続可能性を意味するのではないだろうか。
今回の八王子市の試みは、あくまで一つの自治体の動きに過ぎないかもしれない。しかし、この問題は全国的な課題として、より深く、より広い議論を必要としている。単に負担を増やすというのではなく、例えば、予防医療への投資を強化し、健康寿命を延ばすことで医療費そのものを抑制する。あるいは、地域包括ケアシステムをさらに充実させ、医療と介護を一体的に支援する仕組みを強化する。さらに、高齢者の社会参加を促し、その経験や知恵を活かせる場を創出することで、社会全体の活力向上に繋げていくといった、より能動的で創造的なアプローチが求められている。
高齢者は、社会の貴重な財産である。彼らのこれまでの貢献に報いるだけでなく、将来世代への橋渡し役としても、その役割は大きい。今回の八王子市のニュースを機に、我々は「高齢者の医療費」という表面的な問題の奥にある、「誰一人取り残さない社会」という理念を、今一度、真摯に問い直す必要がある。そして、その実現のために、どのような革新的な道筋を描けるのか。それこそが、今、私たちに問われている創造的な挑戦なのである。
八王子市からのお知らせ：後期高齢者医療制度への「お引越し」手続きについて,八王子市
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