ワークライフバランスの「進化」が問われる時代
相模原市が「仕事と家庭両立支援推進企業」として市内の企業を表彰するというニュースに接し、改めて我々の社会が問われている本質的な課題について考えさせられた。これは単なる地域企業の労をねぎらうセレモニーではない。未来を見据えた社会システムのアップデートが、静かに、しかし確実に進んでいる証左であろう。
これまで、多くの企業にとって「仕事」と「家庭」は、しばしば対立する概念として捉えられてきた。どちらか一方を優先すれば、もう一方が犠牲になる。そんな暗黙の了解の中で、多くのビジネスパーソンが葛藤を抱え、あるいは諦めを強いられてきたのが現実だ。しかし、時代の変化は待ってくれない。女性の社会進出は加速し、男性の育児参加への意識も高まり、そして何よりも、多様な働き方や生き方を受け入れる土壌が育ちつつある。
この相模原市の取り組みは、まさにその流れを汲み取った、極めて先進的な試みと言える。企業が従業員の「家庭」という側面にも積極的に目を向け、支援体制を整えることを「推進」し、それを「表彰」するという行為は、単なる福利厚生の延長線上にあるものではない。それは、企業が社会の一員として、従業員の持続的な成長と幸福、ひいては社会全体の活力にどう貢献していくかという、経営の本質的な問いに対する一つの明確な回答である。
「仕事と家庭の両立支援」。この言葉の響きには、既に現代社会の要請が詰まっている。それは、単に「休ませる」「時短にする」といった消極的な支援に留まらない。むしろ、家庭という個人の大切な基盤が、仕事における創造性や生産性を妨げる要因ではなく、むしろそれを豊かにする原動力となり得る、という積極的な視点を含んでいるはずだ。例えば、柔軟な勤務体系が、育児中の親に新たなスキル習得の機会を与えたり、介護を担う従業員に精神的なゆとりを生み出すことで、結果として職場への貢献度を高めるケースは枚挙にいとまがない。
しかし、我々はここで満足してはならない。相模原市の取り組みは、あくまでスタートラインである。この「仕事と家庭両立支援」という概念は、今後さらに進化し、より多層的な意味合いを帯びていくはずだ。それは、単に子育てや介護といった特定のライフイベントに限定されるものではなく、個々人が抱える様々な事情や、それぞれのライフステージにおける多様なニーズに対応できる、より包括的な「ウェルビーイング支援」へと昇華していくべきだろう。例えば、病気や怪我からの回復期間、学び直しやキャリアチェンジのための休職、さらには趣味や自己啓発といった、個人の精神的な充足感を追求するための時間さえも、企業が支援すべき対象として視野に入れる時代が来るかもしれない。
もちろん、こうした取り組みは企業にとって新たな投資であり、制度設計の複雑さも伴うだろう。しかし、従業員一人ひとりが本来持つポテンシャルを最大限に引き出し、エンゲージメントを高め、結果として企業の持続的な成長に繋げるためには、避けては通れない道である。社員の満足度が、企業のブランド価値を高め、優秀な人材を惹きつける強力な武器となることは、既に多くの先進企業が証明している事実だ。
相模原市の勇気ある一歩が、全国の自治体、そして企業へと波紋を広げ、ワークライフバランスが「両立」という言葉を超え、「共鳴」し、さらには「進化」していく社会へと繋がることを、我々は期待してやまない。それは、企業が単なる経済活動の場ではなく、人がより良く生きるための、より豊かで多様な人生を築くための基盤となるべきだという、我々の社会が共有すべき新たなビジョンを示唆しているからに他ならない。
相模原市が「仕事と家庭両立支援推進企業表彰」を発表！働きやすい社会を目指して,相模原市
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