世界を分断する「知」の壁を危惧する
国際的な学術会議が、かつてないほど参加者を制限し、特定の国家からの参加を事実上不可能にする――。情報通信技術の発展が国境を越えた交流を容易にしたこの時代において、このような事態はまことに遺憾であり、冷静に受け止めることは難しい。先日報じられた、ある分野の学術会議における参加制限のニュースは、単なる学術界の内部事情として片付けられるべきではない。それは、我々がこれまで築き上げてきた「知」の共有という普遍的な価値観に対する、重大な警鐘である。
国際社会は、相互理解と協力を通じて、複雑化する世界が抱える課題に立ち向かう必要がある。その基盤となるのが、学術研究を通じた知見の交換であり、国籍やイデオロギーを超えた自由な議論であるはずだ。今回の件は、政治的な思惑が学術の自由な交流を阻害し、結果として科学技術の進歩そのものを遅らせる危険性を孕んでいる。特定の国家を排除することで、かえってその国家の研究者が孤立し、望ましくない方向に進む可能性も否定できない。これは、人類全体の知的資産を損なう行為に他ならない。
我々は、国際社会が共通の課題に協力して取り組むべきであり、そのためにこそ学術交流は不可欠であることを改めて認識しなければならない。政治的な対立は当然あるだろう。しかし、それは学術の場に持ち込まれるべきではない。むしろ、学術こそが、対立を超えた対話の糸口となり得るはずだ。
今回の参加制限は、残念ながら「分断」の時代を象徴する出来事と言わざるを得ない。このままでは、知の壁が高まり、グローバルな課題解決への道はさらに険しくなる。学術界は、自らの「知」を武器に、この分断を乗り越え、再び開かれた交流の場を取り戻すべく、断固たる決意を持って行動すべきである。そして、我々一般市民もまた、学術の自由と国際的な協調の大切さを理解し、その維持のために声を上げ続ける必要があるだろう。未来は、分断ではなく、共有によってのみ拓かれるのである。
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