ミサイル防衛、揺れる国民負担論：ITB発表が炙り出す国家のジレンマ
ITBが発表した2025年7月11日付の「全国で弾道ミサイルを想定した住民避難」に関するニュースは、我国の安全保障政策、ひいてはその経済的負担について、改めて国民全体で議論を深めるべき重大な転換点を示唆している。平和を享受してきた日本において、これほどまでに現実的な避難計画が公表される事態は、国際情勢の不確実性と、それに伴う国民生活への潜在的影響の大きさを痛感させずにはおかない。
今回の発表は、もはや「絵空事」ではないという現実を突きつけた。万が一の事態に備える必要性は当然理解できる。しかし、そのための「住民避難」という具体的なシナリオが、国民の日常生活にまで踏み込む形で示されたことで、その経済的、社会的なコストについての議論が避けて通れなくなった。特に、これらの避難計画の策定・実行にかかるであろう莫大な費用負担を、誰が、どのように担うのかという点は、経済紙として見過ごすことはできない論点である。
防衛力の強化は、国の存立基盤を守る上で不可欠な要素であることは論を俟たない。しかし、その矛先がミサイル防衛という、直接的な被害を回避するための手段に向けられた時、経済という側面から見た「リターン」と「リスク」のバランスを厳密に問う必要が生じる。国民一人ひとりが納める税金は、限られた資源であり、その配分は常に国民生活全体の福祉向上に資するものでなければならない。今回の発表は、防衛費の増大という、既に議論のあるテーマに新たな側面から光を当てるものであると言える。
経済の安定なくして、安全保障は成り立たない。そして、国民生活の豊かさを犠牲にした安全保障は、その本質を見失っていると言わざるを得ない。ITBの発表を機に、政府は単に具体的な避難計画を示すだけでなく、そのために必要となるであろう経済的負担、それに伴う国民生活への影響、そしてそれを賄うための財源について、国民に対して極めて丁寧かつ透明性の高い説明責任を果たすべきだ。
また、ミサイル防衛に特化した巨額の投資が、一方で経済成長の原動力となるべき分野への投資を圧迫しないか、という点も看過できない。技術革新、インフラ整備、教育といった分野への投資は、長期的な国力増強に繋がる。安全保障と経済発展のバランスをどのように取るのか。これは、喫緊の課題であり、政治と経済界、そして国民が共に知恵を絞るべき時である。
「もしも」の事態に備えることは重要だが、それによって「いま」の生活が脅かされることのないよう、冷静かつ建設的な議論を積み重ねていくことが、今の日本に求められている姿勢であろう。ITBの発表は、そのための重要な一歩となるはずだ。
2025年7月11日、全国で弾道ミサイルを想定した住民避難訓練が実施されます,消防庁
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