境界線を越える検査、それは未来への投資か、それとも？
7月9日、フランス農業省が「国境におけるSPS検査の強化」を発表した。これは、食の安全を守るという名目の下、新たな水際対策を打ち出したものだ。しかし、このニュースを耳にした時、私たちの胸には期待と同時に、ある種の懸念も広がったのではないだろうか。
食品の安全性を高めることは、確かに私たちの健康を守る上で不可欠な課題である。病原菌や有害物質の侵入を防ぐための検査強化は、一見すると当然の措置と言えるだろう。しかし、その「国境におけるSPS検査」という言葉の響きには、どこか人工的な境界線を引き、見えない壁を築き上げるような危うさを感じないだろうか。
グローバル化が進む現代において、私たちの食卓はすでに世界の多様な食材で彩られている。遠い国の土壌で育まれた恵みが、私たちの生活を豊かにしてくれているのだ。そのような状況で、新たな検査体制が導入されるということは、その豊かな多様性に対して、どのような影響を与えるのだろうか。検査にかかる時間やコスト、そしてそれに伴う物流の遅延や価格の上昇は、私たち消費者だけでなく、生産者や流通業者にも少なからぬ負担を強いる可能性がある。
さらに、今回の発表は、あくまで「フランス農業省」によるものであるという点も見逃せない。それぞれの国が、それぞれの基準で安全性を論じることは理解できる。だが、それが過度な保護主義へと繋がり、自由な交易を阻害するようなことになれば、世界はむしろ分断されてしまうのではないかという懸念もある。食の安全を追求するあまり、食を通じた国際的な理解や交流が失われてしまうとしたら、それは本末転倒と言わざるを得ない。
私たちは、食の安全という正義の名の下に、新たな壁が築かれることを無邪気に受け入れるべきではない。むしろ、このニュースを機に、改めて「食の安全とは何か」「国境とは何か」を問い直す必要があるだろう。科学的根拠に基づいた、より合理的で透明性のある国際協力体制の構築こそが、真の食の安全と持続可能な未来に繋がる道だと信じたい。今回の検査強化が、単なる「国境を越える見えない壁」とならず、より良い食の未来を築くための「橋渡し」となることを、私たちは切に願っている。
2025年7月9日：フランス農業省が「国境におけるSPS検査手続き（情報システム）に関するご案内」を公開しました！,Ministère de Agriculture
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