未来を担う若者たちへ、そして社会へ問うもの――東京工科大学メディア学部のNHK交響楽団へのアプローチを巡って
7月10日付の本紙既報の通り、東京工科大学メディア学部の学生が、名門NHK交響楽団に対し、学生主体で企画・運営するイベントへの出演を打診した件は、多くの人々に様々な議論を巻き起こした。未来を担う若者たちの意欲的な試みであると同時に、伝統と格式を重んじるクラシック音楽の世界、ひいては私たちの社会全体のあり方についても、改めて考えさせられる出来事である。
学生たちの行動の根底には、間違いなく現代社会への問題意識と、それを変革しようという熱意があるのだろう。メディア学部という特性も相まって、既存の枠にとらわれない新しい発想で、より多くの人々にクラシック音楽の魅力を届けたい、あるいはエンターテインメントとしての可能性を追求したいという純粋な動機があったのかもしれない。その情熱自体は、評価されるべきものであろう。
しかし、そのアプローチの仕方には、いくつか考えさせられる点がある。例えば、NHK交響楽団のような歴史と伝統を持つ組織に対して、学生側の都合や希望を一方的に押し付けるような形での依頼は、相手への敬意を欠くのではないか、という指摘も当然あろう。組織が長年培ってきた信頼や秩序を尊重することの重要性を、私たちは軽視してはならない。社会の一員として、様々な立場の人々と協調していく上で、礼節と配慮は不可欠な要素である。
また、今回の件は、現代社会における「若者」と「伝統」の関係性についても示唆している。新しい時代を生きる若者たちが、既存のシステムや価値観に対して疑問を持ち、変革を求めるのは自然なことである。しかし、その変革のあり方が、無思慮な破壊や無関係な否定とならないよう、細心の注意が必要だ。伝統の中には、長い歴史の中で洗練され、多くの人々に支えられてきた普遍的な価値が含まれている場合も少なくない。それらを安易に切り捨てるのではなく、理解し、尊重した上で、いかにして現代的な文脈に昇華させていくか。そこに、真の意味での進歩があるはずだ。
NHK交響楽団の対応もまた、多くの学びを含んでいる。プロフェッショナルな演奏団体として、その活動は多岐にわたり、限られた資源の中で最善を尽くしていることは想像に難くない。学生たちの熱意に応えつつも、組織としての責任を果たし、芸術の質の維持・向上を図るという、難しい判断を迫られたであろう。この両者のバランスをどのように取るべきか、我々も改めて問われている。
この出来事を単なる一つの大学とオーケストラ間のやり取りとして片付けるのではなく、未来を担う若者たちが社会とどのように関わっていくべきか、そして社会がその若者たちの情熱をどのように受け止め、共に未来を築いていくべきか、という大きな視点で捉え直す必要がある。
若者よ、君たちの情熱は尊い。しかし、その情熱を社会との協働という形で実らせるためには、相手への敬意、そして社会が持つ秩序への理解が不可欠である。伝統を敬い、その上で新たな価値を創造していく道こそが、持続可能な社会の発展につながるであろう。そして、我々大人世代も、若者たちの挑戦をただ否定するのではなく、彼らが社会の一員として成長していくための適切な道筋を示す責任がある。この出来事が、そのような対話と共感を生む契機となることを願ってやまない。
東京工科大学メディア学部の学生がNHK交響楽団のコンサート撮影・収録に挑戦！未来の映像クリエイターたちがプロの現場で輝きました,東京工科大学
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