追いつ追われつの卒業論文、大学は「学びの伴走者」たれ
キャンパスに静寂と緊張感が交錯する季節。今年も多くの大学生が卒業論文という、学びの集大成と向き合っている。しかし、その道のりは平坦ではない。本紙が入手した情報によれば、某有名大学では卒業論文の締め切り間際に駆け込みでの指導や執筆支援を求める学生が後を絶たないという。単なる「締め切り厳守」の訓戒で済ませるべき問題ではないだろう。これは、現代の大学が抱える学びの本質、そして「伴走者」としての役割を問うている。
確かに、学生自身の主体性や計画性が問われる場面であることは否定しない。しかし、そこに現れる「追いつ追われつ」の状況は、大学側のサポート体制にも見直しの余地があることを示唆している。卒業論文は、単に単位を取得するための通過儀礼ではない。自らの知的好奇心を突き詰め、未知の領域に挑み、論理的に思考し、それを言語化するという、知的な冒険であり、人間的な成長の機会であるはずだ。
では、なぜ多くの学生が締め切り間際に「追いつ追われつ」の状態に陥るのか。考えられる要因はいくつかある。まず、高校までとは比較にならないほど高度な専門知識と、それを自ら探し出し、咀嚼する能力が求められること。そして、明確な正解が用意されていない問いに対し、自ら問いを立て、仮説を検証し、独自の結論を導き出すという、極めて創造的かつ孤独な作業であること。さらに、現代社会は情報過多であり、学生は学業以外の多岐にわたる誘惑や責任に直面している。これらの要因が複合的に絡み合い、多くの学生が「一人で戦っている」という孤独感や不安を感じているのではないか。
ここで大学に求められるのは、単なる知識の伝達者、あるいは評価者という立場を超え、「学びの伴走者」としての役割を果たすことだ。伴走者とは、ゴールまで一緒に走り、時には励まし、時には助言を与え、時には並走することで、ランナーの力を最大限に引き出す存在である。
具体的には、以下のような取り組みが考えられる。
まず、論文執筆のプロセスを細分化し、各段階での具体的な目標設定や、それに合わせたきめ細やかなガイダンスを提供する仕組みの強化だ。例えば、テーマ設定の段階から具体的なアウトライン作成、先行研究の探し方、論証の組み立て方など、段階ごとのワークショップや個別相談会を充実させる。単に「こう書きなさい」という指示ではなく、「なぜそう考えるのか」「他にどんなアプローチがあるか」といった、学生の思考を深めるための問いかけを重視した指導が重要となるだろう。
次に、教員と学生の比率を見直し、より多くの学生が個別のサポートを受けられる体制を整備すること。大学は、多様な研究分野を持つ教授陣という貴重な人的資源を有している。この資源を、より多くの学生が恩恵を受けられるよう、柔軟に活用する方策を検討すべきだ。例えば、特定の期間に、論文指導に特化した教員を増員したり、院生や博士課程の学生をチューターとして活用したりすることも有効だろう。
そして、何よりも重要なのは、大学が「失敗を恐れずに挑戦する」という文化を醸成することだ。卒業論文は、完成度だけでなく、その過程で学生がどれだけ学び、成長したかも評価されるべきである。締め切りに間に合わなかったとしても、その学生がどれだけ主体的に問題に取り組んだのか、どのような壁にぶつかり、それをどう乗り越えようとしたのか。そういった「プロセス」を丁寧に評価し、次の学びへと繋げるフィードバックを行うことで、学生は失敗から学び、さらに困難な課題に挑戦する意欲を高めることができるはずだ。
「追いつ追われつ」という状況は、大学が学生の学びをより深く、より広く支援する機会を与えられている証拠でもある。大学は、卒業論文という学生の成長の岐路において、信頼できる伴走者として、学生一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための努力を惜しむべきではない。その積み重ねこそが、未来を担う人材を育む礎となるだろう。
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