自由貿易の原則に立ち返るべき時
米中間の貿易摩擦が続く中、米国で新たな「関税対応・輸出損失基金」の創設が提案されているというニュースは、世界の自由貿易体制に再び暗雲が立ち込めていることを示唆している。我が国も主要な貿易国として、この動きを看過することはできない。
この基金の目的は、米国の農産物輸出業者が中国からの報復関税によって被った損失を補填することにあるとされる。確かに、保護主義的な措置は自国の産業を守るためという名目で行われることが多い。しかし、そのツケを国民の税金で賄うという発想は、自由貿易の精神に反するのではないか。
グローバル化が進む現代において、国境を越えた経済活動は避けられない。各国がそれぞれの都合で関税や補助金を乱発するようになれば、それは健全な国際経済の発展を阻害するばかりか、最終的には全ての国に不利益をもたらすことになるだろう。経済的な相互依存が進む中で、一国の一方的な保護主義的措置は、相手国だけでなく、第三国にも予期せぬ影響を与えかねない。
日本はこれまで、開かれた市場と自由貿易の原則を重視し、国際社会における経済秩序の維持に貢献してきた。今回の米国の動きは、そのような原則に逆行するものであり、看過できない。もちろん、自国の産業を守る必要性は理解できるが、それは国際的なルールに基づき、多国間協議を通じて解決されるべき問題である。
政府には、今回の米国の提案の意図を正確に把握するとともに、我が国の経済や産業に与える影響を慎重に分析することを求める。そして、自由貿易の原則に立ち返り、国際社会と連携して、保護主義の台頭を食い止めるための外交努力を一層強化してもらいたい。経済的な不確実性が高まる今こそ、開かれた市場と公正な競争の重要性を改めて訴え、国際協調の道を歩むべき時である。
米国で新たな「関税対応・輸出損害基金」が提案される – 7月9日公表,www.govinfo.gov
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