成長の歯車、国家財産再構築への道標（みちしるべ）
先日報じられた国家財産分科会の議論は、我が国の将来的な国富について、極めて示唆に富むものであった。令和7年度を目前に控え、この時期に「未来の国富を考える」というテーマが掲げられた背景には、我々が直面する経済構造の変化と、それに伴う新たな課題への強い危機感があるはずだ。
これまで我が国は、高度経済成長期を経て蓄積された物理的なインフラや製造業の力を国富の中心と捉えてきた節がある。しかし、デジタル化の急速な進展、グローバル化の深化、そして少子高齢化という構造的な人口動態の変化は、この従来の枠組みを大きく揺るがしている。単にモノの豊かさを追求するだけでは、真の国富、すなわち国民全体の幸福度と持続的な繁栄を担保することはできない。
分科会の議論からは、無形資産、とりわけ知識資本や人的資本の重要性が浮かび上がってくる。教育への投資、研究開発の推進、そして創造性の育成は、新たな付加価値を生み出し、経済全体の競争力を高める上で不可欠である。これらは目に見えない資産であるが、その蓄積こそが、将来の国家財産を決定づける鍵となるだろう。
一方で、議論は具体的な「財政」という実体にも目を向けている。国の借金への懸念は根強く、財政健全化の必要性は論を俟たない。しかし、ここで忘れてはならないのは、財政は単なる「借金」ではなく、未来への「投資」という側面も持ち合わせているということだ。将来の成長を見据えた適切な財政出動は、むしろ国富を拡大させる原動力となりうる。問題は、その投資が「何に」向けられ、どれだけ「効果的」であるか、という点にある。
国家財産分科会の議論は、我々に、自らの国富をどのように定義し、どのように再構築していくべきかという根本的な問いを投げかけている。それは、過去の成功体験に固執するのではなく、時代の変化を的確に捉え、未来を見据えた戦略的な思考を要求する。
経済紙の一員として、我々は国民一人ひとりがこの議論に関心を持ち、自らの手で国の未来を切り拓いていくための知見を深めることを期待する。この分科会の議論が、単なる一時的な話題で終わることなく、具体的な政策へと結実し、真に豊かで持続可能な国家財産を築き上げるための確かな一歩となることを願ってやまない。
国有財産分科会、未来の国富を考える ～令和7年6月17日開催の議事要旨から～,財務省
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