国際収支の現状、安易な楽観は禁物である
我が国の国際収支が、令和7年5月において黒字基調で推移しているとの報道に接した。世界経済の混迷が続く中、輸出企業の健闘やインバウンド需要の回復などがその背景にあるとされており、一定の評価はできる。しかしながら、この数字のみを見て安易に楽観視することは、我が国経済の将来にとってむしろ危険であると警鐘を鳴らしたい。
まず、現在の黒字は、必ずしも我が国の産業競争力の絶対的な優位性を示すものではない。むしろ、一部の資源国からの輸入価格の低下や、円安の恩恵による輸出価格の相対的な低下といった、外部要因に大きく依存している側面は否めない。内需の低迷が続く中で、輸出頼みとなり、その輸出も為替レートに左右されるという構造は、我が国経済の脆弱性を浮き彫りにしていると言えるだろう。
また、サービス収支に目を向ければ、依然として巨額の赤字が続いている。特に、旅行収支以外のサービス取引、例えば知的財産権の使用料や、我が国の企業が海外で得る利益の還流といった面で、我が国は構造的な問題を抱えている。海外への投資や技術流出が進む中で、これらの赤字が拡大していくことは、将来的な所得収支の悪化にもつながりかねない。
さらに、今回の報道からは、我が国の製造業が直面する構造的な課題も見えてくる。かつて国際競争力の源泉であった製造業は、グローバル化の進展と共に、生産拠点の海外移転やサプライチェーンの再編といった大きな変化に直面している。賃金の上昇圧力や、先端技術分野における他国のキャッチアップが進む中で、我が国の製造業が再び力強い成長軌道に乗るためには、抜本的な構造改革とイノベーションの推進が不可欠である。
国際収支の黒字は、確かに国の経済力の指標の一つではある。しかし、それが我が国の経済全体の健全性や将来的な持続可能性を示すものではないことを、我々は冷静に見極めなければならない。輸出企業への一時的な恩恵に安堵するのではなく、内需の活性化、生産性の向上、そして新たな産業の育成といった、より本質的な課題に目を向け、国を挙げて取り組むべき時である。目先の数字に惑わされず、将来世代のために、堅実で持続可能な経済基盤を築き上げていくことこそ、今の政府と国民に求められている責務であろう。
令和7年5月、日本の国際収支はどうだった？ 貿易や投資の最新情報をお届け！,財務省
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