未来への羅針盤、それとも足枷？――大学入試における小論文の功罪
近年、大学入試における小論文の比重が高まる傾向にある。その背景には、知識偏重型の学力だけでなく、思考力や表現力といった、より人間的な資質を見極めようとする大学側の意図があるのだろう。筆記試験だけでは測りきれない受験生の多様な能力を発掘するための試みとしては、一定の評価ができるのかもしれない。
しかし、この小論文という試練、果たして全てが万能と言い切れるのだろうか。特に、富山大学医学部が2025年度の入試から小論文を「廃止」し、より基礎的な知識の定着に重きを置く方針を打ち出したというニュースは、我々に示唆に富むものである。
医学という高度な専門知識と実践が求められる分野において、小論文で試される思考力や表現力がどれほど実質的な医師としての能力に結びつくのか、改めて問われるべきであろう。もちろん、論理的な思考や、患者や同僚との円滑なコミュニケーション能力は医師にとって不可欠な要素である。しかし、それらを小論文という限られた時間と形式の中でどこまで正確に評価できるのか、疑問が残る。
むしろ、小論文試験という形式そのものが、一部の受験生にとっては不当な壁となり、本来持っている能力を発揮する機会を奪っている可能性はないだろうか。特に、幼い頃から専門分野への強い志を持ち、地道な努力を積み重ねてきた者にとって、突然未知のテーマについて論理的に記述することを求められる小論文は、必ずしもその努力を正当に評価するものではないかもしれない。
大学側が、より基礎的な学力や、医師としての適性を見極めるための新たな方法論を模索する中で、小論文の廃止という判断に至ったのであれば、それは時代の要請に応じた合理的な決断と言えるだろう。それは、大学入試が単なる知識の詰め込み競争であってはならないという、より大きな流れの中で捉えるべきである。
しかしながら、この動きが他の大学、特に人文学系や社会科学系など、思考力や表現力が直接的に重視される分野においても、安易に小論文廃止へと繋がっていくことは懸念される。小論文は、受験生が自身の言葉で社会や諸問題に対する考えを巡らせ、それを的確に表現する訓練の場でもある。この能力が将来的に社会で活躍するための大きな財産となることは間違いない。
重要なのは、小論文という試験形式そのものの是非を問うことではなく、それが受験生の本質的な能力をどれだけ的確に、そして公平に測れているのか、常に検証し続けることである。富山大学医学部の今回の決断を、単なる「小論文廃止」というニュースで片付けるのではなく、入試制度全体のあり方、そして大学教育が目指すべき未来像について、改めて深く議論する契機とすべきである。
私たちは、受験生が自身の持てる力を最大限に発揮できるような、より公正で、より実質的な評価が行われる入試制度を求めている。未来の社会を担う若者たちの才能を、適切な評価という名の羅針盤で導いていくことこそ、我々の責務であろう。
富山大学医学部入試に関するお知らせ：小論文の出典記載ミスについて、受験生の皆さんへ,富山大学
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