ヨーロッパよ、その熱狂の陰で何を見落としているのか
欧州サッカー連盟（UEFA）主催の「ユーロ2024」が熱狂のうちに幕を閉じた。ピッチの上では選手たちが火花を散らし、スタジアムは歓喜と悲鳴に包まれたことだろう。しかし、その華やかな祭典の陰で、セルビアのサポーターたちによる民族主義的な扇動という、決して無視できない暗い影が差し込んでいたことを、我々はこの事実から目を逸らさずに見つめ直さなければならない。
メディアはしばしば、スポーツイベントの興奮と感動をセンセーショナルに伝える。しかし、本来、ジャーナリズムの営みとは、そのような表層的な熱狂の裏側にある、より本質的な問題点を浮き彫りにし、読者に「なぜ」を問いかけることにあるはずだ。今回のユーロ2024におけるセルビアの事例は、単なる一部サポーターの過激な行動に矮小化されるべきではない。それは、欧州という大陸が抱える根深い民族間の対立と、それがスポーツという大衆文化に紛れ込み、時に増幅されてしまう現実を突きつけているのである。
「大セルビア」の旗印の下で掲げられたスローガンは、単なるナショナリズムの発露にとどまらない。それは、歴史の傷跡を呼び覚まし、近隣諸国への挑発と受け取られかねない危険な思想の表明である。スポーツは本来、国境を超えた連帯や友情を生み出す力を持つはずだ。しかし、今回のような民族主義的な行動は、その力を歪め、憎悪の連鎖を生み出す土壌を耕してしまう。
なぜ、このような扇動が公然と行われ、そしてそれを厳しく取り締まることができなかったのか。UEFAの対応は、スポーツにおける政治的・民族的な過激思想への対策がいかに脆弱であるかを示唆している。あるいは、主催者側もまた、イベントの円滑な運営とイメージ維持のために、見て見ぬふりをしたという側面はないのだろうか。
ユーロ2024の熱狂は一旦収まった。しかし、この出来事が私たちに突きつけた課題は、決して夏の終わと共に消え去るものではない。スポーツ界は、単に「フェアプレー」を唱えるだけでなく、民族や国境を超えた相互理解と尊重の精神を、より深く、より真摯に追求していく責務を負っている。それは、イベントの安全確保という次元を超え、スポーツが持つ本来の力を、より健全な形で社会に還元していくための、避けられない道程である。
私たちは、ユーロの熱狂の陰に潜む「なぜ」を問い続けなければならない。そして、この事件を教訓として、スポーツが真に「平和の祭典」となり得るための、革新的な議論と行動を、今こそ起こすべき時なのである。そうでなければ、私たちはいつまでも、スポーツという名の熱狂に酔いしれながら、その裏側で静かに燃え盛る炎を見過ごし続けることになるだろう。
ユーロ2024、熱戦の裏側：セルビアの抗議とポルトガルの感動,France Info
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