「脱炭素」の光と影：複雑化する資源供給網と経済安全保障の狭間で
7月6日、国際的な資源供給網の複雑性と制裁回避スキームに関するITB社のレポートが公表された。このレポートは、いわゆる「脱炭素社会」の実現に向けた動きが、一方で経済安全保障上の新たな脆弱性を露呈させているという、現代経済が抱える根深いジレンマを浮き彫りにしている。
グリーン化へのシフトは、地球温暖化という喫緊の課題への対応として、もはや避けて通れない潮流である。しかし、その裏側では、レアアースをはじめとする「脱炭素」に不可欠な資源の供給網が、特定の国家に偏在するという構造的な問題が依然として存在する。この偏在性が、地政学的なリスクや国際情勢の変動を直接的に経済活動に影響を与える要因となりうることは、言うまでもない。
ITB社のレポートが指摘するように、こうした状況下で、一部の国々が制裁を回避するための巧妙なスキームを構築しているという事実は、国際的なルールに基づいた経済秩序への挑戦と映る。資源の囲い込みや迂回輸出といった行為は、公正な競争環境を阻害するだけでなく、エネルギー安全保障上のリスクを増大させる。特に、これまで以上に重要性を増すクリーンエネルギー関連技術や素材の供給が、こうした政治的駆け引きの対象となる可能性は看過できない。
経済紙として、我々は常に現実を見据えなければならない。理想論だけでは、経済は立ち行かない。脱炭素化という崇高な目標を掲げながらも、その実現に必要な資源供給網が抱えるリスクから目を背けることはできないのである。むしろ、この課題に正面から向き合い、より強靭で安定した供給網を構築することが、我々経済界に課せられた責務と言えるだろう。
そのためには、まず供給網の「見える化」を進め、特定の国への依存度を低減させるための戦略的な投資や技術開発が不可欠である。国内資源の探査・開発、リサイクルの推進、そして友好国との連携強化を通じたサプライチェーンの多角化は、喫緊の課題である。さらに、制裁回避スキームに対抗するためには、国際社会と連携した実効性のある監視体制や、違反行為に対する厳格な対応が求められる。
「脱炭素」は未来への灯火であるが、その灯火を維持するためには、経済安全保障という足元をしっかりと固める必要がある。ITB社のレポートは、そのための警鐘であると受け止めるべきだろう。我々は、この複雑な時代に、経済発展と安全保障の両立という、極めて困難な課題に立ち向かっていかなければならない。その覚悟を持つ時が、今まさに来ているのである。
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