川崎重工と鴻海、病院業務ロボット開発で協力 「省人化」に潜む危うさ
川崎重工業と台湾の鴻海（ホンハイ）精密工業が、病院での雑務をこなすロボットの開発で提携したというニュースが舞い込んだ。医療現場の負担軽減、特に人手不足が深刻化する中で、こうした技術革新に期待を寄せる声があるのも理解できる。しかし、我々はこの動きを、一抹の不安とともに受け止めねばならない。
確かに、医療従事者の皆様が日夜、献身的に患者様に向き合っておられる姿には頭が下がる思いである。その労をねぎらい、業務負担を軽減しようという志は尊い。しかし、ロボットに「雑務」を委ねるという発想の根底には、「省人化」という言葉がちらつく。それはすなわち、人の手によるサービス、人の温かさ、そして人の経験という、病院という場で最も大切にされるべきものが、効率化の名の下に削ぎ落とされていくのではないかという危惧である。
ロボットができる「雑務」とは、一体何であろうか。シーツ交換、食事の運搬、備品の補充。これらは確かに、看護師の方々にとっては時間のかかる作業かもしれない。しかし、その一つ一つの作業の中に、患者様とのコミュニケーションが生まれる機会があるのではないか。無言でロボットがシーツを取り替えるのではなく、患者様の様子を伺いながら声をかける。運ばれてきた食事に、患者様の顔色をうかがいながら「今日は〇〇が美味しいそうですよ」と一言添える。そうした何気ないやり取りこそが、患者様の心を癒やし、回復への力を与える源泉となるのではないか。
もちろん、最新技術の導入を頭から否定するつもりはない。しかし、その技術がもたらす影響を、短期的な効率性だけでなく、より長期的な視点で、そして何よりも「人間性」という観点から深く吟味する必要がある。病院は、単なる「機能」の集積場ではない。そこには、不安を抱える人々がおり、その不安に寄り添い、希望を与える人々がいる。その「人間的なつながり」こそが、医療の質を担保する基盤であり、ロボットに置き換えることのできない価値であるはずだ。
今回の提携は、あくまで「雑務」の軽減という表向きの理由に留まる。しかし、一度ロボットが病院の日常に溶け込めば、その適用範囲は拡大していく可能性は否定できない。「省人化」の波は、いずれ医療の核心部分にも及びかねない。その時、私たちは何を失ってしまうのだろうか。
我々は、この技術革新の潮流にあえて一石を投じたい。医療現場におけるロボット導入は、決して「人を減らす」ためのものであってはならない。それはあくまで、人がより人間らしい、より質の高いケアを提供するための「支援」であるべきだ。川崎重工、そして鴻海には、今回の提携が、単なる「省人化」競争に終わることなく、人間性が尊重される医療の未来に貢献するものであることを強く願う。そして、私たち国民もまた、この動きを単なる技術進歩として傍観するのではなく、その本質を見極める目を持つことが求められている。
川崎重工とFoxconnが開発：病院での雑務をこなすロボット看護アシスタント、誕生！,The Register
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