令和7年度「家センサス」─ 家という名の「生ける証人」の声を聞く
令和7年度の「家センサス」が、私たちの住まいへの眼差しを静かに、しかし力強く問いかけている。単なる統計データとして片付けられないこの試みは、住まう人々の健康、そして家の健康という、現代社会が直面する根源的な課題への、私たち自身の向き合い方を問うていると言えよう。
「家センサス」、この響きには単なる調査以上の深みが宿る。「センサス」という言葉が持つ、網羅的で、かつ本質に迫ろうとする響き。それが「家」に向けられるとき、私たちの「家」は単なる建築物ではなく、そこで営まれる「生活」そのものの証人、いや、むしろ「生ける証人」として立ち現れてくる。暑さ寒さ、湿気、建材の経年劣化、そしてそこに吹き込まれる家族の息遣い。これらすべてが、家の「健康」を形成する無数の要素となる。
近年、日本の住宅事情は目覚ましい変化を遂げた。高気密・高断熱化が進み、デザイン性も向上。しかしその一方で、私たちは「住まい」が本来持っていたはずの、人間が心地よく暮らすための「自然との調和」という視点を見失ってはいなかっただろうか。結露、カビ、シックハウス症候群。これらは、まるで近代化の歪みが生んだ「家の病」とも言える。そして、その病巣は、そこに住まう人々の健康、特に子どもたちの発達や高齢者のQOL（生活の質）に、静かに、しかし確実に蝕んでいく。
今回の「家センサス」は、この見過ごされがちな「家の健康」を、客観的かつ多角的に捉えようとする画期的な試みだ。断熱性、気密性といった物理的な側面はもちろんのこと、換気状況や建材からの化学物質の放散といった、目に見えにくい要素までをも包括的に調査対象としている。これは、単に「住みやすい家」を追求するだけでなく、「健康な家」という新たな基準を社会全体で共有しようとする、強い意志の表れと言えるだろう。
私たちが当たり前のように享受している「住まい」は、実は非常に繊細なバランスの上に成り立っている。家族の健康を守るためには、まず家の健康を守ることが不可欠だ。この「家センサス」は、その当たり前の事実を、私たち一人ひとりに再認識させる機会を与えてくれる。そして、この調査から得られるデータは、今後の住宅政策、建築基準、さらには私たち自身の住まい選びにおいて、極めて重要な羅針盤となるはずだ。
例えば、今回の調査で明らかになるであろう、地域の気候風土に適合した設計や素材の優位性。あるいは、過去の住宅に対する評価との比較から導き出される、現代の住宅が失ってしまった「何か」。それらは、私たちの住まいに対する固定観念を打ち破り、より本質的で持続可能な住宅像へと導いてくれる可能性を秘めている。
私たちが目指すべきは、単に快適で機能的な「箱」としての家ではない。それは、家族の健康を育み、世代を超えて受け継がれていく「生きた器」としての家であるべきだ。今回の「家センサス」が、その礎となることを期待したい。そして、この調査が単なる一次的なイベントで終わることなく、継続的に「家の健康」を考えるための社会的な対話を深めるきっかけとなることを願ってやまない。家の声に耳を澄ますとき、そこに私たちの未来へのヒントが隠されているはずだ。
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