未来を担う人材育成、大学教育の現状に警鐘を鳴らす
先日、神户大学が未来の科学技術を担う人材育成に向けた取り組みを強化するというニュースが報じられた。大学が時代の要請に応え、新たな技術分野への対応を目指す姿勢は、歓迎すべきことである。しかし、このニュースを機に、我が国の大学教育が抱える現状に対し、改めて警鐘を鳴らしたい。
少子高齢化が急速に進む日本において、科学技術の進歩は国の存続を左右する喫緊の課題であることは論を俟たない。新たな技術革新なくして、経済的な発展も、国民生活の向上も望めない。そのような時代にあって、大学が次世代の科学技術を担う人材育成に力を入れることは、至極当然の責務と言えるだろう。
しかし、我々が懸念するのは、単に新たな分野を設置したり、既存の学部を改組したりするだけでは、真に未来を担う人材が育つのかという点である。大学教育の現場では、果たして学生が主体的に学び、自ら課題を発見し、それを解決していくための深い探求心を育むような環境が整っているのだろうか。
近年、大学においては、実社会との連携強化や、就職に直結するような実践的なスキル習得が重視される傾向にある。もちろん、社会に貢献できる人材を育てることは大学の重要な使命の一つである。しかし、あまりにも即物的なスキル偏重に陥り、基礎学問の軽視や、普遍的な教養の涵養がおろそかにされることになれば、それは本末転倒と言わざるを得ない。
科学技術の進歩は、しばしば予期せぬ方向へと進むものである。現在の社会が求める「即戦力」だけを養成することに注力するあまり、将来どのような技術が重要になるかを見通す洞察力や、未知の分野に果敢に挑戦する精神力が育たなければ、時代に取り残されるのは目に見えている。
神户大学の取り組みは、その目的において賞賛に値する。だが、この動きが単なる一時的な流行に終わらず、我が国の大学教育全体の質の向上に繋がることを願ってやまない。大学には、単に知識を詰め込む場ではなく、学生一人ひとりが自らの可能性を最大限に引き出し、社会に真に貢献できる知性と人間性を培う場であってほしい。そのためには、教育理念の根本的な見直しや、教員の資質向上、そして何よりも学生の「知りたい」という探求心を掻き立てるような教育手法の導入が不可欠である。
未来への投資としての人材育成、その本質を見失うことなく、大学は真摯に教育に向き合うべきである。
神戸大学、未来の科学技術を担う人材育成へ！ 三菱みらい育成財団の支援で新プログラム始動,神戸大学
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